第32話 ナドレアの戦い①
正暦1011年10月22日 ラティニア共和国ナロウズ海外州北西部 ナドレア地方
ナロウズ大陸の三分の一を占めるとされるラティニアの植民地、ナロウズ海外州。その北西部、ノルデニア王国と接するナドレア地方にて、戦いは始まった。
「撃て!」
命令と同時に、数十の火砲が吼える。それらが投射する砲弾の向かう先は、堤防の一部となる様に整備された要塞線そのもの。
「くそっ、攻めてきやがった!」
「工兵戦車が来るぞ、狙い撃ちにしろ!」
鉄筋コンクリート製の堤防上部に築かれた砲台で、ラティニア陸軍の守備兵達は火砲を操作。波の様に攻め寄せる機甲師団へ応戦を開始する。
マイナス海抜の平地や沼地が大半を占めるナドレア地方は、河川の氾濫を原因とする水害に対処するべく、堅牢な堤防を有している。無論堤防が脅威として捕えるのは水害だけではなかった。敵陸上兵力の侵攻に対しても対応できる様に、1個砲兵連隊と工兵大隊が堤防そのものを城塞とした駐屯地に駐留し、複雑な要塞構造と複数種の火力で押しのけてきたのだ。
当然、要塞砲の大半は川を泳ぎながら迫る装甲車に照準を定める。しかしその隙に後方の砲兵・戦車部隊が敵砲台へ効力射を叩き込み、反撃を弱めていく。特に125ミリ砲を有するスラビア陸軍戦車部隊の砲撃は、射点から西に4キロメートル離れた位置の152ミリ榴弾砲を根元から破壊する。
「工兵、取り付きました!」
「よし、土魔法で橋をかけろ!」
指示が飛び、川の向こう側より一気に陸地が現れてくる。それはノルデニア王家お抱えの魔導師の行動であり、川底を魔法で隆起させて築き上げた人工的な橋の上を、数十もの装甲車両が走る。
無論、ラティニア軍は堤防に取り付かれない様に要塞砲の照準を向け、塹壕からは歩兵部隊が有線操作式の対戦車ミサイルを発射。先陣を切って進む戦車の何両かを破壊する。
「サル野郎、このナドレアにまで食指を伸ばしてきやがった…一歩たりとも近寄らせるな!」
歩兵小隊の一つで、小隊長は吼える。が、空から轟音が聞こえてきて、一同は顔を上げた。
「げ、敵の攻撃機だ!」
「対空、応戦しろ!急げ!」
「少佐どの、流石にこちらのほうが不利です!」
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