第31話 決戦に向けて

正暦1011年10月15日 ブリティシア連合王国南部 港湾都市ポート・マルス


「第3艦隊の旗艦を「スカディ」に移して、残る無事な艦艇でプレシー攻撃に参加しろ、か…随分と無茶な事を求めてくるものだ」


 ミサイル駆逐艦「ラーズグリーズ」の艦橋で、キャプテンシートに背もたれながら呟くディムロの表情を、副長は神妙そうな表情で伺う。まぁ本土からの通信内容を知れば、こんな反応を返したくなるのも当然である。


 この時点で第3艦隊が動かせるのは、「スカディ」に軽巡洋艦3隻、駆逐艦4隻、フリゲート艦3隻の10隻。巡洋艦1隻を失い、「クリームヒルト」と駆逐艦3隻がドック送りとなる中で、手数はまるで足りていない。だがノルデニア側にも事情はあった。


「カペンブルグの連中は、今年以内にノルデニア半島を取り戻すという目標を達成し、その後は同盟国とともに、ラティニア軍のナロウズ方面軍司令部が置かれている都市プレシーを制圧して戦争継続を困難にさせるつもりだ。ラティニアのナロウズ支配の象徴たるプレシーが敵の手に落ちたとなれば、混乱はより大きなものとなるからな。その序盤として、港湾都市ラーブルに総攻撃を仕掛ける」


「確かに、プレシーに最も近い港湾都市ラーブルはナロウズ西部で最も物流が盛んな都市。そこを突けば、プレシーは陸路に物流網を頼らざるを得なくなりますね」


「しかも貴族や軍部の我が儘でろくに鉄道を整備していないからな。干殺しにするには丁度良いだろう。上も随分と酷いものだが、ラティニアの過去の行いはそれ以上だ。自業自得だと言うには業が深いやり方だがね」


・・・


ラティニア共和国首都ロマノポリス 共和国軍総司令部


「諸君、執政官閣下は決断なされた。本国艦隊及び第25航空師団はナロウズを再び混沌に突き落そうとするノルデニアに対して聖罰を課するべく派遣する事を決定された。なお特殊砲兵師団の主要責任者は最前線への配置で処分される事となる」


 共和国軍の主要な作戦会議が執り行われる会議室で、総司令官のペルタ元帥は言う。何せこれ以上後がないのだ。第一執政官は『確実な勝利』で幕引きを図るつもりでいた。


「無論、陸軍も独立親衛第1歩兵師団と白獅子騎兵団をプレシー近郊に配置し、既存の守備兵力を戦線へ向ける事で対応している。我らはこれ以上、醜態を晒すわけにはいかぬのだ」

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