第27話 ポート・マルス解放戦②
正暦1011年10月1日 ブリティシア本島南部 港湾都市ポート・マルス
戦闘は2日も続いていた。如何にノルデニア最強の航空戦力と名高いフェンリル隊でも補給は欠かせないし、序盤に接触した部隊を蹴散らせたとはいえ、西部郊外には増援として駆けつけた戦車師団と歩兵師団の2個師団が居座っており、空爆もひっきりなしに続いていた。
「ようやく市街地を奪還出来たとはいえ、今度は守る側か…相手は大層な兵力で攻め続けているが、よくあんなに出せるものですね」
ポート・マルスから東に300キロメートル、戦略爆撃機か戦術弾道ミサイルぐらいしか届かないだろう距離にあるエキュセター飛行場の会議室で、ウラディレーナは呟く。軍事衛星回線を用いてインターネットで会議を繋いでいるラインハルトも、同様の考えを示していた。
『ケルティアは元々、ブリティシアを不倶戴天の仮想敵国として見なしていた国だ。正暦1010年の時点で陸軍だけでも15個師団、戦時突入で10個師団を予備役から復帰させている。海軍・空軍戦力も相応に強化しているから、ラティニアからの援軍を抜いても面倒な事は変わらない』
そう語るラインハルトは今、乗艦たる「クリームヒルト」とともにポート・マルスの港湾外に錨を降ろさずにいる。戦前の時点でケルティア海軍は駆逐艦12隻、フリゲート艦12隻、潜水艦12隻を主用戦力としているが、うち駆逐艦4隻とフリゲート艦4隻は海戦で海の藻屑か、港湾部に躯をさらしている状態にしていた。それでもラティニア海軍が有力な海軍戦力を現地に派遣しているのは事実であるため、これに対応する必要性があった。
『して、レジーネブルグ准将よ。卿の狼達は未だにそちらで夕餉の最中か?先程ブリティシア陸軍の対空砲兵部隊より敵航空機の接近を確認したとの報だ。街を焼き払うには多すぎる程の爆撃機の編隊というが、恐らくはそちらにも向かってくる筈だ』
「恐らくメインディッシュを二つも食べ尽くす腹積もりでしょう。しっかりと毒を代わりに呑ませてやりますとも」
会議を終え、ウラディレーナは直ぐに指示を出す。飛行場ではすでにブリティシア空軍の主力戦闘機である〈ライトニング〉2機が離陸を終え、〈アドラー〉4機がタキシングを済ませていた。
『准将、〈クレーエ〉は3機が腹下しをしちまって、調子が戻るにはあと30分時間をくだせえ!幸いにもフェンリル1の機体は本人同様ピンピンしてるんで、直ぐに上げられますわ!』
口の悪いドワーフの整備班長がインカムで報告を上げ、その頭を軽く叩く音が聞こえてくる。ウラディレーナはふっと笑いつつ、指示を続ける。
「『ルフトアオゲ』も直ぐに出します。先ずはブリティシア空軍部隊に戦果のチャンスを差し上げて下さい。こちらがドレスコードを整えるまで時間を稼いでもらいます。フェンリル1はブリティシアの紳士達にノルデニア流のダンスの仕方でも教えて差し上げなさい」
『フェンリル1、了解。ダンスは元々得意よ』
・・・
それから15分後、マリアは離陸出来た〈アドラー〉4機に、防空部隊に属する〈ライトニング〉8機とともに、敵爆撃機の編隊を出迎えていた。
「皆、敵は爆撃機が多めの部隊よ。護衛戦闘機よりも優先して撃墜し、エキュセターが爆弾で焼かれない様にしなさい。作戦後、不時着して瓦礫の山となった飛行場に帰りたくはないでしょう?」
『了解した、フェンリル1。アンタの踊りを見せてもらおう』
軽口が飛び、マリアは即座に引き金を引く。『ミョルニル』は瞬時に超音速の一撃を飛ばし、数秒後に薄暗い空の向こうに火球が灯る。砲撃はさらに3回も行われ、合計4機を墜としたところで警告音が鳴る。
「全機、
13機は散開し、敵編隊と交戦に入る。敵はラティニア空軍の主力爆撃機〈グルー〉を中心に、〈エクレール〉主力戦闘機が護衛する部隊であり、数は30機程度。半数以上を占める〈エクレール〉が護衛としての本分を果たすべく〈ライトニング〉と〈アドラー〉に襲い掛かるが、夜空とともに青い光が機体を切り裂く。
『げぇっ、『ジェヴォーダン』だ!コイツは疲れというものを知らないのか!?』
『狼狽えるな!こっちは相手の倍はいるんだ、囲んで袋叩きにしろ!』
敵戦闘機はデルタ翼機ならではの軽快な飛行で食らいつこうとする。だが藻掻く様な飛び方はマリアにとって失笑するしかなかった。
「…貴方達など、フレベルグの空で戦った〈ヒポグリフ〉に遠く及ばないわ」
飛行機として、信じがたい機動を描く。『バルムンク』の凶光が瞬き、ミサイルの飛翔音が響く度に火球が夜空を彩る。それはまるで、怪鳥が小鳥を狩る様に。
『おい、ボディーガード共が狩られて行ってんぞ!逃げるぞ!』
『阿呆、逃げたら軍法会議だ!何としても連中の変える場所を焼き払―』
『た、隊長機が墜とされた!救援はどうし―』
悲鳴が響き、多くの機体が無慈悲にも撃墜されていく。その様子はポート・マルス沖合にて、艦隊防空の任を担うための高性能な対空監視レーダーを有する「ラーズグリーズ」も把握していた。
『CICより艦橋、レーダー上でやけに動きのいい
「ふむ…こちらも対空ミサイルで敵爆撃機を蹴散らしたところだ。戦闘がひと段落したら、我ら一同で彼女に贈り物でもあげるとするか」
ディムロがそう呟いていると、CICに務める通信員が声を上げた。
『艦長、「プリンス・オブ・ヨーク」より入電!ラティニアと思しき艦隊がこちらに向かって接近しているとの事!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます