第26話 ポート・マルス解放戦①

正暦1011年9月29日 ブリティシア島南部海域 港湾都市ポート・マルス沖合


 ブリティシア諸島の西部地域を構成するケルティア島を領土とするケルティア共和国は、ラティニア共和国がこの世界に転移してくる以前から、長らくブリティシアと対立関係にあった。


 特に最初の世界大戦後に、ラティニアからの軍事支援で独立したケルティアは、北ケルティアを領土として保持するブリティシアに対して復讐を目論んできていた。そして此度の戦争で、ブリティシアの悪しき王政国家を叩き潰す機会を手にしたのである。


 そのブリティシア本当南西部、エレウス地方にてケルティア軍は進駐し、じわじわと占領地域を拡大させていた。何せ戦車師団は全て〈リノセロス〉で統一しており、制空権もラティニア製戦闘機で順調に奪えている。序盤でラティニアの弾道ミサイルに袋叩きにされたブリティシア相手に負ける可能性など想像もしていなかった。


 だが、港湾都市ポート・マルスにおいてはそれは慢心でしかない事を、彼らは理解する事となった。何故ならその海と空には、ノルデニア王国にて英雄にも等しい扱いを受けている強者達の姿があったからだ。


「畜生、『ジェヴォーダン』が来てやがる!空軍の連中はどうした!」


「今必死に追い掛け回されてるところだよ、くそが!」


 地上では陸軍歩兵師団に属する兵士達が必死になって携帯地対空ミサイルや機関銃で応戦するが、電子戦ポッドで照準を跳ね除けながら飛び回る〈クレーエ〉はそれを異に介する事無く、『バルムンク』レーザーで車両もろとも切り裂いていく。その地上ではブリティシア陸軍の戦車部隊が前進し、120ミリライフル砲より必殺の粘着榴弾を叩き込んでいた。


 攻勢を仕掛けるべく田畑を踏み躙りながら東進していた戦車群は、その大半が『ミョルニル』レールガンに射抜かれて物言わぬ鉄屑と化している。そして港湾部を拠するべく展開していた軍艦は、沖合より放たれるミサイルと艦砲の餌食になっていた。


「相手も随分と可哀想だ。まさか手負いの獣相手に調子に乗っていたところに、狼が空から襲い掛かってくるのだからな」


 敵駆逐艦を対艦ミサイルで沈黙させ、港湾部で慌てふためく地上部隊に艦砲射撃を浴びせる「ラーズグリーズ」艦橋で、ディムロ艦長は呟く。フェンリル隊の攻撃力の高さは折り紙付きで、中でもマリアの機体はこの手の戦闘に役立っていた。


「さて…ここからどう戦局を変えていけるか…」

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