第25話 ブリティシアを救援せよ

正暦1011年9月29日 ブリティシア諸島南部海域


 ノルデニア半島以西とナロウズ北西部、そしてブリティシア諸島の大半と面する北海の上を、数十隻の大艦隊が進む。ノルデニア半島からラティニア軍を一掃する事に成功した後、ノルデニア海軍第3艦隊は軍港アスロにて1週間かけて整備。そしてブリティシア海軍の救援艦隊とともにブリティシア諸島南部海域へ展開していた。


「ブリティシア側からの情報によると、現在ラティニアはケルティアに対して旧式だが多数の兵器を援助。ブリティシア各地の主要軍事拠点を弾道ミサイルで一方的に叩いてから軍を東進させ、エレウズ地方を占領。サクスランド地方も半分以上を占領され、残るはブリティス地方とその周辺のみという。ある意味で我が国以上に厳しい状況だ」


 艦隊旗艦「クリームヒルト」の士官室で、ラインハルトは幕僚達の前で説明する。テーブルの上には地図が敷かれ、浮遊魔法で僅かに浮かぶ駒が敵味方の配置を示すために展開されている。


「ブリティシア海軍の救援艦隊も、序盤のミサイル攻撃を免れた残存部隊をメインに構成しており、彼らの奮戦は本土で抵抗する友軍を勇気づけたそうだ。よって我らはこの勇敢なる決断に全力で報いる必要がある」


 今回、ノルデニア軍は大胆にも多くの兵力をブリティシアへ送り込む事を決定した。すでに北海航路上ではスラビア海軍が対潜水艦掃討作戦を開始しており、救援ルートが設けられている。今頃はアスロを発った輸送船団が陸軍第7歩兵師団を載せてブリティシアに向かっているだろう。


「今回我らが用いる事の出来る兵力は、「プリンス・オブ・ヨーク」含むブリティシア艦隊7隻と、我ら第3艦隊14隻。そして空には我が軍自慢の『渡り鳥』が12機だ。空中給油のみでは厳しいと見て海上輸送で先行してもらっていたが、我らの作戦までには間に合った様だ」


 ノルデニア王国の存亡に大きく関わってきた存在たる長距離戦略打撃群は、フレベルグ解放戦後に一日の休暇を経て、ブリティシア連合王国へ海路で派遣。先んじて現地のケルティア軍相手に大暴れしていたのだ。


「暗号無線解読班は大笑いしていたそうだ。わざわざ平文で『ジェヴォーダンの獣がエレウズの空にも現れた』とわめいている者がいたという。ノルデニアでの活躍がブリティシアにも届いていたのは驚きだ」


 ラインハルトの言葉に、数人が笑う。そしてラインハルトは表情を引き締め、言葉を続けた。


「同時に我らも、このブリティシアの海でケルティア軍に打撃を与え、侵攻を阻止しなければならない。幸いにして空には怪狼の名を背負いし渡り鳥の姿がある、ラティニアの狼藉に加担する蛮勇の集団へ裁きを与えようではないか」


『了解!』

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