第14話 ダンチヒ解放戦

正暦1011年8月21日 ポルニア共和国北西部 ダンチヒ市より東に100キロメートル


 ポルニア共和国北西部にある港湾都市、ダンチヒ。その東側郊外に数十の装甲車両が集う。それはポルニア共和国陸軍第11装甲騎兵師団に属する第10装甲騎兵旅団の戦車部隊で、ラティニア陸軍第24歩兵師団が蹴散らされたのを好機と見て反攻に移った後、ノルデニアとの分断を目論んで占領されたダンチヒを解放するべく、スラビアの援軍と共に西進していた。


「隊長、ノルデニアが例の『渡り鳥』を送るそうです。これで勝ったも当然ですね」


 Pz-74主力戦車の車内で、砲手は戦車小隊長を兼ねる車長に話しかける。車長は周囲を双眼鏡で警戒しながら話に応じる。


「そう調子に乗るな。このダンチヒは前々からラティニアが狙っていた工業都市だ、守備兵力は相当なものと聞いている。祖国の領土を奪還する戦争なんだ、ノルデニアにばかり戦果を取らせるわけにはいかん。決して油断するなよ」


 ラティニア陸軍は近年になって機甲戦力を拡充させてきている。最新型の主力戦車であるAML-92〈オレル〉の配備を進める他、半世紀前よりラティニア陸軍戦車部隊の顔役を務めているAML-63B2〈リノセロス2〉の近代化改修は、ナロウズ諸国の陸軍部隊にとって脅威的であった。戦争序盤、〈オレル〉を先陣に立てての浸透戦術はポルニア・ノルデニア両国の防衛戦を容易く食い破り、市街地戦では〈リノセロス〉のクラスター砲弾と遠隔操作式機銃が猛威を振るった。


 彼ら戦車部隊はその序盤の戦闘の生き残りであり、ラティニア軍の強化された恐ろしさを身に染みて理解していた。故に車長は慢心を咎めたのである。


「さて、ここからが正念場だ。全員、気を引き締めろよ!」


・・・


『これよりポルニア・スラビア連合軍及び陸軍第4騎兵師団に対する航空支援を開始する。今回は3個小隊での作戦だ、敵兵力を片っ端から蹴散らせ』


 遥か上空を舞う『ルフトアオゲ』より、レジーネブルクが指示を飛ばす。その近くには、かつて自分が乗っていた〈アドラー〉を駆る同僚の姿。


『マリア姉さん、漸く戦線復帰出来ました。一気呵成に畳みかけましょう!』


「油断しないで。弾薬を使い切ったらすぐに飛行場へ戻って、機体の整備と補給を済ませて。敵は逃げるどころかこちらに向かってくるわ、戦果を稼ぐチャンスは無限にある」


『了解です、フェンリル1』


『雑談はそこまでにして。ダンチヒ郊外の飛行場より航空戦力の発進を確認。敵戦闘機を優先的に排除し、制空権を奪取せよ』


「了解。ZOM、この距離から狙える?」


『命中率は89パーセント。微調整を実施します』


 直後、ヘルメットのバイザーにレティクルが投影。敵機を瞬時に捕捉し、引き金を引いた。『ミョルニル』の砲撃は瞬時に敵戦闘機を射抜き、間髪入れずに急加速。今度は『グラム』レーザーで2機目を斬り落とす。


『我らがエースが始めたぞ!ついてこい、戦い方を教えてやる!』


『敵機は直線番長の〈エクレール〉だ、俺達お得意のダンスで転ばせろ!』


 号令一過、2機の〈クレーエ〉と9機の〈アドラー〉が続く。先の華々しい戦果を受けて、ノルデニア軍上層部はエース向け機体として〈クレーエ〉を量産する事を決定。この長距離戦略打撃群に対して優先的に配備される方針となっていた。


 対する敵戦闘機、SA-84〈エクレール〉は〈ミラージュ〉の正統発展型とも言うべき迎撃戦闘機で、主翼にデルタ翼を採用しているが故に直線での高速飛行は得意だが、旋回しながらの格闘戦は苦手であった。そしてノルデニアの航空機は総じて格闘戦を主体とした設計である上に、〈アドラー〉と〈クレーエ〉は〈エクレール〉のマッハ2の突進に追従出来るだけの速度を出せる。となればどうなるか。


『お、追われている!誰か助け―』


『曲がれ、曲がれぇぇぇぇぇ!!!』


『お、俺は、スペシャルで、2000回で、模擬戦なんだよぉ!』


『…無線が混線してやがる、死ぬときぐらい静かに出来ねえのかよ』


 ラーベがこっそりと皮肉を口にする中、マリアは敵機を敢えて後ろに付け、隙へ誘う。そして警報が鳴ったその瞬間、機体を縦に立てる。コブラ機動をしながらの降下で敵機を前へ行かせ、瞬時に立て直してからレーザーを照射。僅か数秒の動作で3機目を仕留めた。


 そうして長距離戦略打撃群が暴れ回る中、地上でもポルニア陸軍機甲部隊が前へ進む。すでに敵は籠城の構えを見せていたが、士気の面では明らかに上回っていた。


 斯くして、ポルニア・スラビア連合軍はラティニア陸軍部隊を撃破し、ダンチヒを解放。ノルデニア半島を攻めるラティニア軍に対して大きく圧力を掛ける事となる。

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