第12話 お迎え

正暦1011年8月15日 フレベルグ近郊


「しかし、わざわざウチの工兵部隊や現地の建設業者も用いて建設を急がせるとは…空軍の工兵部隊は腑抜けているな」


 フレベルグ近郊の道路で、ブレーンはそう呟きながら、隣に立つ少年の頭を撫でる。その道路上には2機の戦闘機の姿。


 ここは、湖畔に面した幹線道路の一つで、麦畑の隣を沿う様に全長2000メートルもの長さが舗装されている。完成当初は街の物流と観光が栄えると町長が自慢げに語っていたこの道路は今、第39戦闘攻撃飛行連隊の野戦飛行場として流用されていた。


 南の町々へ通ずるトンネルは掩体壕として用いられ、麦畑だった敷地には幾つものトレーラーハウスやかまぼこ型の仮設倉庫が設置されている。トンネルのある丘の上にも手が入れられ、そこには地対空ミサイルと対空警戒レーダーが設置された。


 中でも目を引くのは、湖畔に面したドライブイン施設を改造した管制施設である。湖を一望する展望塔には管制員が務め、この飛行場を離着陸する航空機の管制を行っている。だがこれの『改造』には第11航空師団の工兵大隊のみでは手が足りず、フレベルグ駐留の陸軍工兵や、強制徴発した民間の建設企業もこき使って完成させていた。


「しかし大尉、何故にこの道路を野戦飛行場に利用する事になったのでしょうか?フレベルグにも立派な飛行場がありますよね?」


「そっちは新たに編成された第31航空師団の連中が持っていった。本国では戦争特需で多大な利益が発生しているからな。貴族の連中が徴兵逃れに献金を進めたもんで、〈ヒポグリフ〉も大量生産が進んでいるそうだ。AALも新型戦闘機の開発にかなり力を入れているそうだし、この拮抗状態を崩したいのだろうな」


 ブレーンが部下にそう言う中、一人の男が寄って来る。彼は第39連隊の先任士官であった。


「そういや新型戦闘機で思い出したが、ノルデニア空軍が新型戦闘機を開発したという。先のアスロ空襲を阻止したり、ポルニア方面の戦線で1個歩兵師団を壊乱させたのもその新型機の仕業だそうだ」


 噂によれば、その新型戦闘機は高火力の大砲を積んでおり、遥か遠距離から重爆撃機を一撃で墜とすという。アスロを爆撃しに向かった爆撃機を壊滅させたのもその新型戦闘機という。


「新型か…39連隊はどうする?相手をするのは確実だろうが…上はどう対応を取るつもりだ?」


「どうにもならんよ。ただ、戦闘を生き残った面々の話によると、敵の1機は尾翼に狼のエンブレムを描いているそうだ。そいつを狩れば戦局は変わるだろうな」


・・・


正暦1011年8月16日 アスロ軍港


 ノルデニア半島北部の港湾都市、アスロ。その軍港区画にある第2艦隊司令部にて、十数人の将兵が集められていた。


「お迎え、ですか?」


「ああ…現在ブリティシア海軍は我が国の厳しい状況を救うべく、救援として艦隊を派遣するという。この厚意に応えるべく、海軍は動員可能な艦艇全てを用いてこれの出迎えに向かう。任務は妨害に現れるであろう敵艦隊の迎撃だ」

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