第11話 防壁作戦

正暦1011年8月7日 ノルデニア半島より南東に500キロメートル ポルニア共和国北部


 ノルデニア王国やスラビアと接する国、ポルニア共和国。ナロウズで最も成功した共和制国家とも呼ばれるこの国は、二度の世界大戦を経て強大な陸軍を有し、ナロウズ大陸西部に広大な植民地を持つラティニアに対抗していた。


 だが、開戦と同時に大量の弾道ミサイルと戦略爆撃機の編隊が飛来。地上兵力に偏重した軍事力は空から一方的に叩き潰され、今や沿岸部のみが国土となっていた。


『と、このポルニア軍を追い詰めているのは、ラティニア陸軍東部軍管区の第24歩兵師団です。この街の外縁に複数部隊を散開させて半包囲陣を敷き、戦術弾道ミサイルも用いた重厚な火力で磨り潰そうとしています』


 『ルフトアオゲ』より、長距離戦略打撃部隊の指揮を執るウラディレーナ・フォン・レジーネブルク大佐が説明を行う。元々は統帥本部戦略研究部にいたという若い女性士官は、かつて複数の魔族を率いていた魔王一族を祖先とする者の一人で、開戦直後の『グングニル』防衛戦ではたまたま連絡将校として派遣されていたところを即席の部隊を編制して敵軍を迎撃。敗走する部隊の追撃を目論んだラティニア軍を、どうにか機能が生きていた『グングニル』1門の水平射撃で返り討ちにする戦果を上げたという。


 その際に60センチ砲弾で吹き飛ばされた敵兵の数は1万。直後の陣地内での戦闘では魔法攻撃で敵空挺兵士を次々と惨殺し、雪の様に白い髪と白磁の如き白い肌は赤く染まったという。『鮮血の女王ブラッディ・レジーナ』という薄気味悪い二つ名を背負ってカペンブルグに凱旋してくるのもうなずける話である。


『第1特殊戦略打撃群、第13戦闘飛行隊『フェンリル』の目的は、その戦術弾道ミサイルの炙り出しと破壊です。フェンリル1、3、5、7は対地兵装を搭載し、フェンリル2、4、6、8は対空兵装を有しています。フェンリル1、3、5、7は敵陣地を攻撃し、その間のエアカバーはフェンリル2、4、6、8がお願いします。なおポルニア空軍の残存部隊はスラビア空軍の援軍とともに陽動作戦を実行中ですので、応対してくる敵航空戦力は少ないでしょう』


『おーおー、随分と無茶を言いなさるぜ、女王様はよ』


 隣を飛ぶラーベの呟きに、マリアも同感だと思う。空中給油機に助けられてポルニアへ辿り着くこと3時間。8機の戦闘機は兵装を満載して北の港町に達していた。


 AWKP-02には新たに〈クレーエ〉の名称が与えられた。電波吸収材で覆われた機体は黒く、その姿はまさにクレーエと呼ぶに相応しかった。その〈クレーエ〉は2機用意され、ラーベはそれに乗り換えていた。


「…ZOMゾム、地表探査を開始。戦術弾道ミサイル発射台の位置を調べて」


『了解…HMDにアイコンを表示します』


 直後、視界にアイコンが投影。操縦桿を倒し、目標地点に向けて機体を飛ばす。その真上にはラーベの姿があった。


「フェンリル1、目標捕捉。『ミョルニル』、シュート」


 引き金を引き、40ミリ砲弾が超音速で射出される。その一撃は数キロメートル先の発射台に備え付けられている弾道ミサイルを射抜き、直後に爆発。運用する人員を四方へ吹き飛ばす。


『着弾を確認。次を頼む』


「任せて。これ以上相手には撃たせない」


 翼を翻し、二つ目を狙う。その周囲には数両の装甲車が展開し、車上の重機関銃で対空射撃を目論む。が、射程はまるで足りていなかった。


「フラッシュ」


 『バルムンク』の閃光が瞬き、装甲車が一瞬で切り裂かれる。その光はミサイルも発射台ごと切断し、大爆発が起きた。他方では〈アドラー〉が爆弾を投下しつつ、機銃掃射でミサイルを破壊している。威力は高いが命中率を高めるために飛び方を甘くしなければならず、敵の対空砲火を浴びやすい。そのため先ずは周囲の対空砲を潰してから本命を叩いていた。


『おっと、お客さんがようやく来たか。中尉は地上に集中していてくれ』


 そう言ってラーベは離れていき、そして要撃に赴いた敵戦闘機と交戦に入る。この戦場には主に〈ミラージュ〉が投入されており、超音速で飛びながら格闘戦で優位に立つ能力を持つその機体は間違いなく輝いていた。また爆弾も搭載でき、対地支援もこなしてきていたという。


 だが、今対峙している相手は彼らの詳しく知らない新型機。そしてその能力は尋常ならざるものであった。レーダーで捕捉するや否や、1機を『ミョルニル』で粉砕。即座に『バルムンク』に切り替え、2機目をレーザーで切り裂く。


 超音速ですれ違うや否や、〈ミラージュ〉は必至に身体をよじって後方に位置取ろうとしたものの、その挙動は余りにも甘すぎた。身を捻る様に軽々とターンした〈クレーエ〉はその挙動を活かしてレーザーを振り、そして〈ミラージュ〉の主翼を斬り落とす。そこから一気に加速し、2機を食らう。


 その最中にもマリアは地上へ降下し、ポルニア陸軍へ攻勢を掛けていたラティニア軍部隊へ攻撃を続ける。空軍による制空権確保の後に進軍を行う航空支配領域戦闘を戦闘教義ドクトリンとするラティニア陸軍は、その規模に比して対空兵器が少ない。せいぜい自衛手段として装甲車両上部の重機関銃か、個人携帯式の地対空ミサイルぐらいしか無く、しかもその地対空ミサイルは性能がお粗末そのものであった。


 〈クレーエ〉の主翼に懸架している航空爆弾が投下され、着弾。爆発が装甲車数両をズタズタに引き裂く。現在〈クレーエ〉は24発の小口径爆弾を搭載しており、対戦車ミサイルに比して命中率は低いものの、破壊力は高かった。


『敵軍地上部隊の撃破、及び航空戦力の撃退に成功。これで圧力は収まるでしょう、お疲れ様でした』

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