第10話 反撃のチャンス
正暦1011年8月3日 ノルデニア共和国首都カペンブルグ 統帥本部
「アスロ防空に成功した結果、ラティニア軍は保有する戦略爆撃機の1割を喪失。飛行場及び軍港区画に対する爆撃も阻止し、ノルデニア半島北部の制空権は死守出来ました。またスラビアからの支援も本格的となり、これで何とか持ち直す事が出来ます」
統帥本部地下の会議室で、ミッターマイヤー元帥は国王ジークフリート3世以下の面々に説明し、数人の閣僚が胸を撫で下ろす。
「何とか首の皮が一枚つながったか…だが、これからどうする?」
「陸軍はどうにか戦線を維持できているものの、敵軍は我が方の鉄道路線を利用して部隊と物資を戦線に送り込み、3個軍団による大規模攻勢を企図している。その後方には多数の弾道ミサイルを配置し、先ず飽和攻撃で最前線を崩してから一斉に突撃させるつもりだ」
「空軍も爆撃機部隊が反攻作戦の用意を進めているものの、敵には複数のエースパイロット部隊がいる。フォルクは空軍機の稼働率向上に励んでいるそうだが…」
「…どのみち、ここで耐えねば我らに明日はない。首都圏の守備兵力を何とか反攻の要に用いる事が出来ればいいのだが…首都圏管轄の『グングニル』の状態は?」
「現在、8門中3門が稼働状態。5門中2門は整備中で、残る3門は侵攻序盤の弾道ミサイル攻撃により損傷。急ぎ復旧を進めておりますが、ノルデニア半島での反攻を助けるには心許ないです」
・・・
正暦1011年8月5日 アスロ空軍基地
先の防空戦で戦果を上げた者達の何人かは、アスロ基地の司令部にある会議室に集められていた。
「長距離戦略打撃作戦、ですか?」
マリアの問いに対し、基地司令のハンス・フォン・イエーガー少将は頷く。先の空戦の結果、侵攻序盤の生き残りにして30機近くを撃墜しているマリアは空軍中尉に昇進しており、戦時という事で1個飛行小隊を指揮する権限が与えられていた。
「ああ…現在ラティニア軍は植民地自衛部隊も動員してナロウズ西部の完全侵略を目論んでいるが、地上兵力の大半は東方面に向けられている。その規模は4個軍団で、ポルニア全土の占領維持とスラビア領への侵攻を進めているという」
ラティニア陸軍の兵力は平時の時点で13個軍団もあり、師団だとその数は39個に達する。それに加えて予備役軍団には5個師団があり、開戦後は新たに4個師団を新編して3個軍団を編制。ノルデニア半島とポルニア、そして南のダキアに兵力を差し向けているという。
「そこで、我が軍はノルデニア半島に対する圧力の軽減も見込んで少数精鋭部隊を編制し、空中給油を介してポルニア北部へ展開。東進を進める敵軍地上戦力へ打撃を与える。首都圏の『グングニル』が敵弾道ミサイルへの対処に忙殺される中、これは極めて貴重な戦略攻撃となるだろう」
「おお…これは随分と賭けに打って出ましたね。ですが、、勝った時の儲けも大きい」
「という事でマリア、お前達はさらなる機器に立たされる事となる。絶対に気を抜くなよ」
『了解!』
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