第9話 アスロ防空戦
正暦1011年8月1日 ノルデニア王国北部 港湾都市アスロ
アスロの空に十数機の迎撃機が舞い上がり、南へ向かい始める。その中にはマリアの駆る試作戦闘機の姿もあった。
『フクス3、貴機は僚機を欠いている。他の機とエレメントを組め』
先に空から様子を伺っていた『ルフトアオゲ』から通信が入り、直後に別の機体から通信が入る。
『こちら
『ルフトアオゲ、了解した。コールサインはTACのままでいいな?』
『ああ、構わない』
直後、1機の黒い〈アドラー〉が真横に位置してくる。胴体部のスコアマーキングからして
『さてフクス3、早速で悪いがエレメントを組ませてもらう。聞いたぜ、ラティニアの〈ヒポグリフ〉って奴と戦って生き残った数少ないパイロットなんだってな』
「敵は〈グルー〉を中心とした爆撃部隊です。私が〈グルー〉を何機か落としますので、それを狙いに来た〈オラージェ〉は頼みます」
『ラーベ、了解した』
そう言った直後、マリアはヘッドマウントディスプレイに表示されるレティクルに敵機を収める。そして引き金を引いた。
轟音とともに、閃光が迸る。その数秒後、遥か先に黒い花が咲く。『ミョルニル』の装填時間を含めたクールタイムは5秒。航空機が回避機動を取るには十分だったが、爆撃を最優先にしようとする鈍重な重爆撃機に二の矢を放つには十分な時間だった。
『ボギー2、スプラッシュ。護衛機の接近を確認』
「来たわよ、頼んだ!」
『あいよ』
軽やかに黒い〈アドラー〉が舞い、急加速。一瞬で敵の背後に位置取り、空対空ミサイルを発射。2機を瞬時に撃墜する。残る2機も急ぎ対応を試みるが、ラーベは錐揉みする様に降下。それを追う様に敵機が降下し始めた途端に急上昇。そして一瞬のうちに背後を取り、ミサイルを叩き込む。
その間にもマリアは引き金を引き、さらに2機の敵爆撃機を落とす。その頃には味方がミサイル攻撃で敵爆撃機へ攻撃を開始し、敵機は瞬く間に数を減らしていく。
「武装切り替え、『バルムンク』準備。発射」
二条の青い光が瞬き、直後に1機、また1機と火だるまに包まれて墜ちていく。試作兵器であるだけに威力は非常に高く、戦闘開始から僅か1分で4機の敵爆撃機が撃墜された。その間にラーベは敵機を4機も墜としており、マリアは中々の腕前であると理解した。
「各機、先頭を進んでいた敵機は始末した。1機たりともアスロに近付けないで」
『了解!』
『フクス3、別の編隊の座標を指定する。MHDに表示する』
『ルフトアオゲ』がそう伝えてきた直後、視界に矢印が現れる。その方向へ操縦桿を傾け、矢印の近くで表示される距離の数値が0へと近付いていく。直後にレーダーが複数の機影をアイコンで表示し、即座に兵装を切り替え。再び『ミョルニル』が閃光を放った。
『ボギー4、スプラッシュ。新たなボギーが接近中、格闘戦用兵装への切り替えを推奨』
「了解」
即座に切り替え、機体を一気に急上昇。そこから身を捻る様に機首を下に向け、初撃が空ぶった敵機に向けて急降下。2発の空対空ミサイルを放つ。
機体が編隊の合間をすり抜ける直前に黒い花が咲き、敵機2機はその仇を取ろうと必死に機体を捻る。が、彼らの視界には彼女の相棒が一切映っておらず、そしてそれを知覚する時はついぞ来なかった。
『フォックス2』
ミサイルが主翼を食いちぎり、キャノピーを至近距離での爆発が叩き割る。そうして2機が火だるまになって墜ちていき、ひと段落したマリアの隣にラーベが並んできた。
『6機撃墜。やるなアンタ。爆撃機が8機に戦闘機2機…上の連中が泣いて喜ぶ大戦果だ』
「貴方こそ、戦闘機6機撃墜とはやるわね。病院のベッドで寝込んでいる同僚にも見せてやりたいわ」
『軽口を交わす余裕が出来て何よりだ。敵編隊の残存機は撤退を開始、我々の勝利だ。帰投したら基地一同でお祝いしよう。もちろん、酒ではなくミネラルウォーターでな』
『ルフトアオゲ』からの通信に、マリアは小さく微笑む。そして2機は揃って主翼を翻し、守り切った基地へ帰投し始めるのだった。
・・・
「やれやれ、空の面子が張り切ってくれた様だな」
アスロ港の外側。爆撃による被害を防ぐために沖合に出ていた「ラーズグリーズ」艦橋で、ディムロ艦長は呟く。
「ここを落とされたら、今度こそ一巻の終わりですからね…」
「とはいえ、このままの調子だとジリ貧からの大敗もあり得る。上はどうするつもりなのかね…」
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