第7話 西ノルデニア海戦②
正暦1011年7月25日 ノルデニア半島西部海域
ラティニア海軍の北部方面主力艦隊、通称『北洋艦隊』はノルデニア半島西部の制海権を掌握し、ブリティシア連合王国との通商航路を寸断するべく東進していた。
超大型空母「ロベスピエル」を旗艦に据え、ミサイル巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、フリゲート艦6隻、潜水艦3隻、補給艦2隻の30隻で構成される北洋艦隊は、北海の荒い波を踏み砕き、ノルデニア海軍第2艦隊に迫っていた。
「敵艦隊、我が方の空襲を迎撃し、攻撃を凌いだ模様です。その上で攻撃隊を差し向けてきましたが、駆逐艦1隻の被弾で済みましたな」
空母「ロベスピエル」の艦橋で、艦長のモンシル大佐は報告を上げ、艦隊司令官のバール提督は頷く。第一次攻撃隊はすでに帰投を開始しており、甲板上にて新たなミサイルと燃料を補給している。そして輪形陣を構成していた巡洋艦群と駆逐艦6隻の計12隻は前へ前進し、敵艦隊との距離を詰めていた。
「相手は弾薬が払底しかけています。ここいらで叩きのめすのがよろしいでしょう」
「うむ…水上艦隊は距離を詰めてミサイルを一斉射。第二次攻撃隊はそこに対して空襲を仕掛けよ!邪教徒の艦隊をまとめて海底に叩き落とせ!」
・・・
『レーダーに反応あり!敵艦隊よりミサイル発射を確認!圧倒的に多すぎる!』
「ラーズグリーズ」の艦橋に報告が上がり、ディムロ艦長は舌打ちをする。ラティニアの水上戦闘艦に対する対艦装備の充実ぶりは有名で、最初の大戦では55センチ長魚雷を多数装備した大型駆逐艦や、強力な大口径速射砲を有する巡洋艦がラティニア海軍の代名詞とされていた。そして今日では十数発もの対艦ミサイルを有するミサイル巡洋艦が水上打撃艦隊の顔役を務めており、十数隻の艦艇から一斉に放つ飽和攻撃が今日のラティニア海軍における海戦
「電子戦開始!迎撃よりも回避に重点を置け!すでに僚艦は撃墜よりも回避に専念し始めている、絶対に避けるぞ!」
現在、艦尾の『シュベルリング』艦対空ミサイルは再装填途中であり、艦首の『ダインスレイブ』も残り20発。僚艦との連携で防げたと言えど、敵空母は間違いなく第二次攻撃隊の準備を進めている筈である。よって残るミサイルを敵艦載機の迎撃に用いたかった。
命令一過、艦上構造物各所に搭載されているロケット砲から、次々とチャフが撃ち上げられる。マストに設置されている妨害電波発振装置も対応を開始しているが、敵は電子戦に対して既に策を講じているらしい。結果として電波攻撃で墜落させられたのは僅か3発であった。
「主砲、機銃、迎撃!」
今度は主砲の10.2センチ単装砲と、Flak68・30ミリ対空機関砲による対空射撃。毎分3000発の速さで30ミリ砲弾をばらまくガトリング砲を、砲塔と一体化しているレーダーや射撃管制コンピュータで自動的に射撃させる
『敵ミサイル、3発撃墜を確認!』
「よしっ…!」
「っ、巡洋艦「エスベルグ」被弾!大破しました!続けて空母「ファヴニール」、甲板に被弾!被害が拡大していきます!」
乗組員からの報告に、ディムロは思わず形相を歪める。確かに迎撃自体は順調だが、全ての艦がそうであるわけではない。迎撃網を潜り抜けたミサイルは弾頭部のレーダー追尾装置で目標を捕捉し、突入。その破壊力を解放せしめたのだ。
『艦隊旗艦、次席の揚陸艦「ペンギン」に移りました!全艦直ちに反転し、母港アスロへ撤退せよとの事です!』
「撤退か…空母艦載機はどうするんだ?味方の安全圏まで燃料は持つのか?」
『艦載機は味方の制空権確保圏内まで飛行し、燃料の持つ者は最寄りの飛行場へ着陸。持たない者は救難機を要請してから不時着水せよとの事です』
〈ゼーアドラー〉の航続距離は何も搭載していない時で凡そ3000キロメートル。今空中にいるのは対艦攻撃のために出撃していたもので、航続距離はミサイルを積んだ分燃料の消費が激しく、2000キロメートルを切るだろう。これを考慮して沿岸部に沿う形で航行していなければ厳しかっただろう。
「しかし、こうも相手にイニシアチブを握られたままなのはもどかしいな…上はこれをどうするのかね…」
ディムロはそう呟きながら、戦闘の収まりつつある海を見つめた。
この日、『西ノルデニア海戦』と呼ばれる事になる戦闘でノルデニア海軍第2艦隊とラティニア海軍北洋艦隊がエスベルグより北西600キロメートルの地点で交戦。ノルデニア艦隊は巡洋艦1隻が沈没し、空母「ファヴニール」と艦艇3隻が損傷。アスロへの撤退を余儀なくされた。
対するラティニア海軍はノルデニア半島西部海域の制海権を確保し、占領した都市エスベルグを拠点に攻撃を開始。ブリティシア連合王国との分断作戦に励む事となる。
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