第6話 西ノルデニア海戦①
正暦1011年7月25日 ノルデニア半島西部海域
ノルデニア半島北西部海域を、十数隻の艦隊が進む。ノルデニア王立海軍第2艦隊は西部の都市エスベルグを奪還するべく、揚陸艦部隊を率いて南下を続けていた。
空母「ファヴニール」を中心に、巡洋艦4隻、駆逐艦12隻からなる艦隊は、後方に揚陸艦4隻、フリゲート艦6隻を従えており、3個存在する水上打撃艦隊の戦力としては相当な規模を誇っていた。だが、「ファヴニール」艦橋に立つ第2艦隊司令官のグスタフ中将は顔色がさえなかった。
「戦力は確かに十分だが…ここまでのところ、敵潜水艦が一度も襲来してきていないのが不穏過ぎる。半島の北上で哨戒機の行動範囲を狭めたにも関わらずだ」
ノルデニア王立海軍は沿岸防備を主目的としてフリゲート艦の様な水上警備艦以外にも、空からソナーブイや磁気探知機、そして搭乗員の目視で不審船を捜索する多目的哨戒機を有している。他国の哨戒機が数的には非武装のものが主力となっているのに対し、ノルデニア海軍航空隊は
しかし、当然ながら航空機との交戦は想定されていないため、護衛としてK-19T〈ゼーアドラー〉艦上戦闘機が付随されている事が多い。その運用状況でも敵空軍がノルデニア半島南部の制空権を奪った以上はブリティシア連合王国や、ナロウズ大陸中部の資源大国『スロビア連合国』とのシーレーンに運用リソースを割くしかなく、現状は巡洋艦や一部のミサイル駆逐艦艦載機として搭載されている対潜哨戒ヘリコプターに任せるしかなかった。
「一応、空は常時1個小隊を
軍統帥本部の直属部隊である情報本部によれば、序盤の侵攻で暴れ回った敵の新型戦闘機はCP-11〈ヒポグリフ〉という。これまでの主力戦闘機だった〈ミラージュ〉とは一線を画す設計がされたその機体は、垂直尾翼と水平尾翼の機能を統合したV字型双尾翼に
とその時、
『提督、先行する「ラーズグリーズ」より入電!方位010より複数の敵影接近を確認。反応の大きさと数からして空母艦載機と推定との事!』
「相手は真っ向からぶつかる方針で攻めて来たか…全艦、対空戦闘用意!」
・・・
「ダンスホールを開くぞ、全艦戦闘配置!」
駆逐艦「ラーズグリーズ」の艦橋にて、ディムロ艦長はそう呼びかける。本艦の装備する『ダインスレイブ』艦隊防空ミサイルの射程距離は凡そ30キロメートル。
「艦長、「レギンレイヴ」が対応を開始しました」
とはいえ、やはり行動が早いのは手の長い艦である。レギンレイヴ級ミサイル駆逐艦は幾多の新機軸を盛り込んで建造された第三世代で、射程75キロメートルの新型『ダインスレイブ』を運用可能なVLSに、全方位を探知・対応する事の出来る多機能レーダーシステムを採用している。しかし1隻当たりの建造費が巡洋艦2隻分に高騰したのが祟り、僅か3隻しか建造されなかったという曰く付きでもあった。
しかし、それ故に性能は高く、迫りくる敵機のミサイル攻撃に対して『ダインスレイブ』を発射。高性能レーダーは水平線を這う様に迫る敵ミサイルを逃さず、レーダー上にて複数の光点が衝突し合った。
『第二波、本艦にも来ます!』
「対空戦闘開始!逃した奴は『シュベルリング』で迎え撃て!」
命令直後、艦首の旋回式連装発射機が目標方面に旋回し、レールに備え付けられたミサイルが噴煙を噴き出して投射。瞬く間に空の向こうへと跳んでいく。
「取り舵5度、『シュベルリング』の射界を確保せよ。それでも逃した奴は…砲術、気を張れよ」
『了解…!』
そう指示する最中にも、連装発射機の下部ハッチが開き、レールに挟む様にミサイルを備え付けていく。そして支持架が回り、艦橋構造物の上部にあるイルミネーターが新たな目標へレーダー波を照射。続けてもう2発が放たれる。
『第二波、2発撃墜…別方向より3発接近!すでに空中哨戒機が1発撃墜しました!』
「迎撃急げ!ロートルだと侮っているが、こちらは経験でモノを言わせてるんだ。侮るなよ」
そう指示を飛ばす最中にも、ついに水平線の向こうに幾つもの光点が見える。続けて艦尾ヘリコプター格納庫上の八連装発射機と射撃管制装置が旋回し、レーダー波の照射を開始。直後、ハッチを2発のミサイルが突き破って出てきた。
数十秒後、洋上に二つの黒い花が咲く。と同時に主砲が吼え、10.2センチ単装砲が毎分60発のレートで敵ミサイルへ砲弾を放り込む。敵のミサイルは砲弾を直撃させるには小さい的であったが、砲弾には近接信管がある。至近距離で爆発した砲弾の破片はミサイルにダメージを与えていき、やがて爆発。撃墜を確認する。
『敵ミサイル、撃墜を確認』
「おかわりが来るからな、気を付けろよ!」
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