XVI. 英雄の暗殺

 ユウヤは殺された。


 王都へ帰還する途中、私たちが立ち寄った村。

 村中が邪竜討伐の喜びに湧いていた。


 花束を持って近づいてきた男の子。

 ユウヤがそれを受け取ろうと笑顔で腰を屈める。

 その瞬間――


 男の子は、隠し持っていたナイフでユウヤの胸を刺した。


 吹き出る血。

 何が起こったのか、瞬時には判断できなかった。

 トラーラが慌てて癒やしの力をユウヤに放つ。


 しかし、癒やしの力も死んでいる者には効き目がない。


 ユウヤは心臓を損傷して大量出血。

 回復魔法も間に合わず、あっという間に死に至った。


 最後の言葉は――


 ――「ギィゼ」


 拘束された男の子は十歳くらい。

 村の憲兵隊に拘束されて、連れて行かれた。


 何かがおかしい。

 私たちの胸に湧き上がる疑問。

 なぜあの男の子はユウヤを刺したのか。

 まったく理由がわからないのだ。


 胸に渦巻く悲しみに耐えながら、私たちは留置場で男の子と面会した。

 なぜユウヤを刺したのか。

 男の子は涙を流しながらも、言葉は何も出てこなかった。

 この子は悪人ではない。何か理由があるはずだ。


「ふんふ〜ん、ふふ〜ん♪ えいっ♪」


 男の子を安心させようと、フェアリーのピッチュが男の子の周りを歌いながら踊るように飛び回った。ピッチュが必死に笑顔を作っているのが分かる。知ってるよ、私。ピッチュ、ユウヤのこと大好きだったもんね。

 同時に、マーマンのトラーラが癒やしの力を男の子に使い、男の子の心はようやく落ち着きを取り戻した。


 そして、エルフのリリィが魔法の力で男の子の心をそっと覗き込む。

 男の子の思いが映像となってリリィの頭の中に映し出された。


 貧しい家。

 病気の母親。

 昨日は物乞い。

 一昨日はクズ拾い。

 そんな毎日。

 薬が欲しい。

 どうしても薬が欲しい。

 でも、高価で買えない。

 心を覆う絶望。


 そんな時に持ちかけられた。

 『薬が欲しければ、ユウヤを殺せ』と。


 その話を持ちかけたのは――




 ――王国の騎士団長・ゴルダイン。



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