XIV. 邪竜との死闘

 死滅の火山。現在も活発な活動を続けている活火山だ。

 地熱による真夏のような熱さの中、私たちはユウヤを先頭に汗を拭いながら山を登っていく。


『GUGYAOHHHHHHH!』


 邪竜の雄叫びが聞こえた。

 ヤツはすぐそこだ!


 山頂近く、大きく開けた場所に邪竜はいた。

 見上げるような巨体。鈍く輝く赤黒い瞳。紫がかった艶のある黒い鱗に覆われ、脈動するように身体中の鱗の隙間が赤く光っている。


 私たちは邪竜と相対あいたいした。


『英雄気取りの虫けらどもか……』


 邪竜は私たちを嘲笑うかのように口元を醜く歪ませた。

 武器を抜き、構える私たち。

 邪竜が何かを唱えている。


「散れ!」

地獄へ落ちろFall from Grace


 ユウヤの叫びに、それぞれが散り散りになる私たち。

 同時に私たちがいた場所で爆発が起こる。

 これが戦闘開始の合図となった。


 私・ギィゼが切り込み隊長となり、邪竜の懐に飛び込む。私の持つ短剣を見てニヤリと笑う邪竜。鋼鉄よりも強固な鱗らしいからね。

 でも、私の短剣はこの時のためにダノが鍛え上げた特別製。私の剣技で邪竜の胸元を切り刻んでいく。


『GYISHAAAAAAA!』


 自分が傷を負うことなど考えていなかったのだろう。何百年か振りに味わう痛みに、叫び声を上げる邪竜。

 そして、私とともに聖剣を振るい、邪竜の身体を切り裂いていくユウヤ。英雄の一撃により、邪竜に深い傷を与えていく。


『貴様ら、余の身体を傷つけたなっ!』


 プライドを傷つけられて怒り狂い、岩をも切り裂く爪を振るう邪竜だが、私たちには当たらない。

 邪竜の顔の周りをフェアリー・ピッチュが飛び回り、まどいの粉を撒き続けているからだ。邪竜を完全に惑わせることはできなくても、目くらましとしては十分で、飛び回るピッチュ自身も邪竜の牽制になっている。

 邪竜の隙をついて、片腕のドワーフ・ダノも巨大なハンマーを邪竜の身体に食い込ませていた。


『虫けらどもがぁ!』


 軽く身体をよじる邪竜。周囲を一掃するように、その巨大な尾を振り回した。


 ガヅンンンッ!


 重厚な鎧に身を包んだはぐれオーガ・バルガスが、巨大な盾でその尾を受け止める。邪竜の尾による攻撃は、すべてバルガスが受け止めた。


「慈愛の力での者に癒やしを!」


 神の奇跡を起こしバルガスや私たちを癒やすマーマン・トラーラ。

 その横で呪文の詠唱を続けるエルフ・リリィ。


獄炎の王国よ来たれりThy Kingdom Come!」


 邪竜が青白い豪炎に包まれる。

 火の魔法に耐性のあるはずの邪竜が、その猛烈な熱に焼かれていく。


『UGYAOHHHHHHH!』


 怒りに打ち震える邪竜は、私たちに向けて大きな口を開いた。


『遊びはここまでだ! 朽ち果てるがいい!』


 あらゆるものを瞬時に腐らせる腐敗のブレス。邪竜の必殺技だ。

 邪竜がブレスを吐き出せば、一帯はすべて朽ち果て、死の大地となるだろう。


 しかし、私たちは退かなかった。


『GOBAAAAAAA!』


 腐敗のブレスが邪竜の口から放たれた瞬間、ユウヤは聖剣を掲げた。

 聖剣が腐敗のブレスをすべて吸収していく。


 この聖剣は竜と戦うためのものであった。

 炎を吐く赤竜、毒を吐く緑竜、雷を吐く青竜、酸を吐く黒竜、冷気を吐く白竜……どの竜も最大の必殺技はそのブレス攻撃だ。聖剣はそのブレス攻撃を無効化し、自らの力に変換できることが、これまでの旅と冒険の中で明らかになったのだ。

 おそらくいにしえの勇者は、その力に気付かなかったため、邪竜を倒し切れず、封印をしたのであろう。

 『ドラゴンスレイヤー竜を屠るもの』、それが聖剣の真名まなであった。


 腐敗のブレスを吸収していく聖剣に、邪竜も慌てた様子を隠せない。


「自らの力で朽ち果てろ! 邪竜!」


 バルガスの肩を踏み台に高く飛び上がったユウヤ。そのまま聖剣を邪竜の額へと突き刺した。


『GYAAAAAAAAAAAA!』


 凄まじい断末魔を上げながら、地面に崩れ落ちるように倒れた邪竜。その身体がゆっくりと塵になっていく。聖剣の力で聖浄化された腐敗の力により、邪竜の身体が朽ち果てているのだ。


 やがて、そのすべては塵となった。

 もはや封印すらも必要がない。


 両手に短剣を握りしめたまま呆然とする私を、ユウヤは抱き締めてくれた。


 私たち『虹色旅団』の完全勝利だった。



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