XII. 世界を救う英雄

「聖剣を使うためには、生命の神の許可が必要だ」


 片腕のドワーフ・ダノの手によって蘇った聖剣。

 しかし、通常であれば普通に剣として使えるものの、戦いの場においては、ユウヤが鞘から抜いたその瞬間、重量が何十倍にもなり、武器として装備することがどうしてもできなかった。ユウヤ以外では、鞘から抜くことすらできなかったのだ。もちろん、私ギィゼも抜けなかった。

 そこで、はぐれオーガ・バルガスを鍛えた戦の神に相談したところ、許可が必要だと分かったのだ。


 生命の神が御座おわすのは、険しい山を登った先にある幻雲げんうんの神殿。私たちはそこを目指した。


 山を登り始めて三日目。眼下に雲が流れている。

 すべてが大理石で築かれた幻雲げんうんの神殿。その奥に白いあごひげを生やした生命の神がいた。


「聖剣を使いたければ、我の試練を乗り越えてみせよ」


 私たちがここに来た理由は、すでに知っているようだ。

 そんな言葉を聞き、一歩前に出たのはユウヤだった。

 旅に出てから数年が経過し、筋骨隆々な逞しい男へと成長したユウヤ。

 彼もまた試練に挑むのだ。


 生命の神は、その手から次々と異形の怪物たちを生み出していった。

 それをユウヤが斬り伏せていく。

 徐々に強くなっていく怪物。身体に無数の傷を負いながらも、薄氷の勝利を掴んでいくユウヤ。

 すべての怪物を倒した瞬間、私たちは歓声を上げた。


 しかし――


 私たち六人は、いつの間にかユウヤと相対あいたいしていた。

 満身創痍のユウヤが最後に挑む相手、それは私たち六人だった。


「生き残った方に聖剣を使う許可を出す」


 これが神の気まぐれというやつか。

 戦うことなんてできない。でも、世界を見捨てることもできない。

 選択を迫られた私たち。

 動いたのは、ユウヤだった。


「みんな、あとは頼んだぞ」


 ユウヤは、躊躇なく自らの心臓を剣で貫いた。

 驚く私たち。生命の神すら驚いている。

 大理石の床に、血溜まりが広がっていく。


 突然のことで言葉を失う仲間たち。

 私は涙ながらに叫んだ。


「生命の神よ! これがあなたの望んでいた結果か!」


 両手で顔を押さえ、自らを恥じている様子の生命の神。


「彼の世界を救う覚悟、そして仲間を想う気持ちを私は見誤っていた……本来は絶対にしてはいけないことだが……」


 生命の神が右腕をユウヤの方へと伸ばす。

 右手から春の陽光のような優しい光の束がユウヤを包んだ。

 血溜まりがユウヤに吸い込まれていくように小さくなっていく。


「あれ?」


 生命を取り戻したユウヤを仲間たちが抱き締めた。


「小僧! 聖剣を携える資格を持つオマエが死んでどうする!」

「守るべきものがなければ、オレは力を振るえない」

「誰のために百年以上も魔法の修行を積んだと思ってんのよ!」

「ユウヤ、もっと我々を信用してほしい。最初に我々に相談すべきだ」

「勝手に死んだら、またしちゃうからね!」

「お願いだから、心配させないで……」


 私たちの様子を見た生命の神が力を込めて話し始めた。


「君たちであれば、邪神の化身である邪竜を倒すことも夢物語ではないであろう。神同士は戦えない……無力な我々を許してくれ……」


 そして、ユウヤを見つめる生命の神。


「我はユウヤに聖剣の使用を許可する! 同時に、彼へ『世界を救う英雄The World Hero』の称号を与えるものとする!」


 旅に出て数年、ついにユウヤは英雄となったのだった。



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