XI. 愛を知る魔族の支配者

 私、紫色の髪・魔族のギィゼも試練に挑むことになる。


 邪竜のいる死滅の火山にほど近い場所にある朽ち果てた古城。いにしえの魔族の王・魔王の居城だった城だ。邪竜討伐に使える装備品やアイテムがないか、ユウヤたちと確認しに来たのだ。


 何の灯りもなく、薄暗い城内。埃っぽく、カビっぽい匂いが漂っており、もう何百年も人の出入りがないことが伺えた。

 すべての部屋を確認したが、残念ながらめぼしいものは何も得られなかった。数百年の間に朽ち果ててしまったのだろう。


 最後のやってきたのは、城の中心にある玉座だ。

 はるか昔は、きらびやかな装飾がなされ、荘厳な玉座に魔王が鎮座していたのだ。今はただ朽ちかけた玉座が辛うじて残っている。


 私はそっと玉座に触れた――その瞬間、何かが私の頭に入り込んできた。玉座に残された魔王の思念が私の脳を侵食していく。


 やめろ。


 忘れたい過去の記憶が心の奥底から溢れ出す。


 やめてくれ。


 あの時、私は何度も、何度も、何度も、何度も殴られた。

 どのヒューマンも愉悦に浸っていた。


 いやだ。


 あの時、私は何度も、何度も、何度も、何度も蹴られた。

 どのヒューマンも愉悦に浸っていた。


 もういやだ。


 あの時、私は何度も、何度も、何度も、何度も犯された。

 どのヒューマンも愉悦に浸っていた。


 殺す。


 代るがわる私を犯すヒューマンたち。

 すべてのヒューマンが愉悦に浸っていた。


 皆殺しにしてやる!


「ぐあああああああぁぁぁぁぁっ!」


 叫びを上げる。

 瞳の色が血のような赤い色に変わっていく。

 怒りに支配された魔族の特徴だ。


 皆殺しだ! ヒューマンは全員殺してやる!


 ふわっ


 暖かい何かが私を包んだ。

 心を支配していた怒りがゆっくりと溶けていく。


 ユウヤが私を抱き締めてくれたのだ。


 ユウヤはすべてを知っている。

 私が奴隷だったことも、慰みものにされてきたことも。

 私が汚れきっていることを知っていても、ユウヤは私を抱き締めてくれた。


「……ユウヤ……たすけて……」


 私の言葉に、ユウヤの抱き締める力が強くなっていく。

 止まらない涙とともに、心の澱が流れ出ていく。

 私もユウヤにしがみつくように抱きついていた。


「ギィゼよ……お前は我ら魔族に足りなかった愛を知った……今からでも遅くはない……ヒューマンや他の種族との共存を……お前に『愛を知る魔族の支配者The Sweet Demon Lord』の称号とともに、魔族の未来を託したい……頼んだぞ……」


 魔王の思念は消滅した。


 魔王から称号を与えられたことで、身体能力が著しく向上した。

 私はその素早さを活かし、両手に短剣を携えたアタッカーとして近接戦での大きな戦力となっていく。


 ……で、『愛』って何!?


「ユウヤとしちゃえば良かったのに」


 ピッチュの言葉に、リリィも一緒になってニヤニヤしている。

 できるわけないでしょ!




 ……したいけど。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る