VIII. 深淵を見た賢者

「リリィ、お前は里から追放じゃ!」


 緑色の髪・エルフのリリィは、エルフの証である風の魔法を使うことができなかった。


 (いつか私にだって使える)


 そんな思いは打ち砕かれ、『お前はエルフじゃない』と長老から里を追放されてしまったのだ。


 森を出て、エルフであることを隠しながら、街で冒険者として暮らす日々。宿に泊まる金もなく、路地裏の軒下でローブにくるまる。いつものことだ。


「キミって、魔法使い?」


 突然声をかけてきたヒューマンの男。

 それがユウヤだった。


 無視していたが、何度も何度もやってくる。

 根負けしたリリィは、すべてを打ち明けた。


「私は魔法を使えないエルフなの!」


 不思議そうな顔をするユウヤ。

 リリィから強い魔力を感じるというのだ。

 ユウヤから火の魔法を使ってみろと言われたが、エルフは風の魔法以外使えないはずだ。


「やってみなきゃ分かんないでしょ」


 馬鹿げた男だ。

 リリィはファイアボールの呪文を唱えてみた。


 ぼふっ


 小さな火の玉が手から出た。

 驚く私に「ねっ?」って顔をしているユウヤ。

 死ぬほど嬉しい反面、リリィは何だか微妙にムカついた。


 その後、ユウヤたちと共に旅をしながら魔法の練習をするリリィだったが、中々戦力になることができなかった。


「慌てることないよ」


 ユウヤの優しさが心に痛いリリィ。

 その時、里のあった森のどこかにあるという魔法の楽園のおとぎ話を思い出した。雲を掴むような話ではあるが、リリィは森の最奥を探索。

 そして、ついに『精霊王の楽園』に続くほこらを見つける。


「三日後に迎えに来て」


 そうユウヤに言い残して、リリィは楽園に足を踏み入れた。

 眼の前に広がる森と美しい湖。そこに純白の衣に身を包んだ美しい女性がいた。『精霊王』だ。

 『精霊王』の統べるこの世界は、時間の流れが大きく違う。そんな中、『精霊王』の元で研鑽を積み続けるリリィ。


 そして、ありとあらゆる魔法を極めた時、すでに楽園に来てから百年以上が経過していた。寿命の長いエルフだからできる研鑽方法だ。

 リリィの魔法へのあくなき探求心に、『精霊王』は「深淵を見た賢者The Deep Sage」の称号を与え、そしてリリィは帰還した。


 ユウヤが三日後に祠へ迎えに来たところ、リリィが待っていた。

 そこにはボロボロのローブを被っていた三日前のリリィとは異なり、深緑色の魔法のローブに身を包み、自信に満ち溢れたリリィがいた。


「これからもアンタの旅に付き合ってあげるから、感謝しなさいよね!」


 そう言いながらも、ユウヤと嬉しそうに腕を組むリリィ。

 ユウヤの仲間に強力な魔法使いが加わった瞬間だった。



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