第5話 エッチなお姉さんとピンクブリッジの死闘


 パンツが消失したことにより、エッチなお姉さんから卑猥なお姉さんへとランクアップ。これは大変な事態である。なぜならエッチなお姉さんがノーパンでストレッチしているのだ。先程エッチなお姉さんは隠すためのパンツは見られてもいいと言っていたが、その防御の要が今はない。


 さすがのエッチなお姉さんも、城壁が焼け落ちた丸裸の本丸を攻め込まれては可哀想だ。何より──


「分かっていないな……」


 と俺は呟き、「HEY。コロクサ。これから言うことが可能かどうかだけで答えてくれ。焼け落ちないパンツは出せるか? 出来ればエッチなお姉さんが履いていたのと同じデザインで」と、エッチなお姉さんに聞こえないように囁いた。


『可能です』


 coloréコロレの店内に設置された坊主社製のスピーカーから、機械的な女性の声が答える。


「なら次に俺が『HEY。コロクサ』と言ったら出してくれ」

『了解しました』


 エッチなお姉さんが機械的なコロクサの声に「?」というような顔をしているが、俺の作戦はバレていないようだ。ついでにノーパンの事実にも気付いていない。とても刺激的な光景ではあるが──


 やはり分かっていない。パンツがあるからこそなのだ。男はパンツの向こう側を渇望するが故に、パンツに恋い焦がれる。


 誰でも辿り着ける花園などに興味はない。男なら己の力で花園への道を切り開く。それが俺の変態紳士道だ。


 俺は「おいっちにーさんし」とストレッチするエッチなお姉さんに、「ねえお姉さん。俺がもっと効率的なストレッチを教えてあげるからこっちにおいで」と声をかける。なんだかちょっと変態的な声のかけ方な気がするが、エッチなお姉さんは「え? そんなのあるの?」と、興味津々な顔でこちらを見る。とてもキラキラとした純粋な目。


 エッチなお姉さんは卑猥なお姉さんにランクアップはしたが、心はとても綺麗なのだろう。


「ブリッジって言うんだけど……仰向けの状態から背中を浮かして、反り返った身体を両手両足だけで支えるんだ。とりあえず俺がやってみるから真似してみて」

「うん分かった! でもなんで目が血走ってるの?」

「それはお姉さんが戦おうとしてるのに、何も出来ない自分が悔しくてだよ……」

「そう……なんだ。いい人なんだね。役に立たないって言ってごめんね……?」

「こっちこそ何も出来なくてごめん。だからせめてお姉さんが怪我をしないように、ストレッチの手伝いをしたいんだ……」

「ありがと……(トゥンク)」


 我ながら素晴らしい適当トークだ。なんせ美容師は臨機応変な適当トークが得意。(※適当とは「ちょうどよく合うこと。ふさわしいこと」という意味ですので、ご注意下さい)


 付き合ってはいけない3Bの職業と言われるくらい、その口から紡がれる言葉を信用してはいけない。(※あくまで都市伝説ですので、ご注意下さい)


 エッチなお姉さん、もとい卑猥なお姉さんが「トゥンク」している気がして、心が痛むが──


 卑猥なお姉さんを元のエッチなお姉さんに戻すために、俺はこの作戦を成功させなくてはならない。そう、桃色ピンクの花園を守るためにブリッジで繋ぐ未来……


 これはピンクブリッジの死闘なのだ。(※ピンクブリッジの死闘で検索して出てくる内容とは一切関係ないので、ご注意下さい。あくまでピンクブリッジです)

 

 そうして俺はブリッジのやり方を実践し、エッチなお姉さんが真似をする。


「こ、こう……? き、きついけど……すんごく伸びてる気がするよ! 開いてるって言えばいいのかな?」

 

 俺は今、エッチなお姉さんの足元にいる。そう、これから行われる死闘の最前線だ。自分で考えた作戦だが、とんでもないことになってしまったな──と思う。だが、作戦を成功させるためには目を背けてはならない。開いていようが閉じていようが、目を背けてはならないのだ。


 そう心に決めて目を見開き、エッチなお姉さんの右足をそっと持ち上げる。「え? え!? 何してるの!?」と、困惑するエッチなお姉さん。


「これは怪我をしないように、君の右足を伸ばしているんだよ。見えているのはパンツだから気にしてはいけないよ」

「そ、そうなんだ! ありがと!」


 とんでもなく純粋なエッチなお姉さんに、今度は俺の心が「トゥンク」しそうになる。だがだめだ。一時の恋愛感情などにうつつを抜かしていれば、この作戦は間違いなく失敗する。俺は再び目を見開き、「HEY! コロクサ!」と叫んだ。


 それと同時、俺の手に握られる消失したはずのパンツ。この非常事態を解決するための、白く輝く希望の鍵。


 すかさず俺はエッチなお姉さんの右足首にパンツを通し、右足をそっと下ろす。そうして今度は左足を持ち上げつつ、足首にパンツを通し、一気に膝上まで持っていく。


 今現在パンツはエッチなお姉さんの太もも辺り。そう、半脱ぎのような状態だ。俺の口からは「ぐぅ……これはきついな……」と、本音が漏れる。なぜなら変態紳士にとって、半脱ぎも半脱ぎで破壊力が高いからである。


「え? もしかして私重い!? は、恥ずかしいよぉ……」


 そう言ってエッチなお姉さんが恥ずかしそうに身を捩るので、秘密の花園が揺れ動く。これでは作戦継続が難しいので、とりあえず「違うんだお姉さん。やっぱりストレッチくらいしか手伝えない現実が『きついな』って思って……」と、適当な言葉を伝える。するとエッチなお姉さんが「や、優しいんだね……(トゥンク)」と、大人しくなる。


 これでようやく全てが整った。


 長い、長い死闘の末、ようやく俺は秘密の花園を守護まもることが出来る。こんなに誇らしい気持ちになったのはいつ以来だろうか?


 俺は花園の守護者。


 その想いを胸に、視線を花園に向ける。


 そして──


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 と、エッチなお姉さんにパンツを履かせた。

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