第4話 エッチなお姉さんとワインレッドの拳


 coloréコロレにある薬剤や道具を使ってみて、その使いやすさに驚く。ドライヤーはふんわりと優しい風ですぐに髪が乾き、カットで使った鋏は「え? ちょっと切れ味凄すぎて怖いんだけど……」というくらい、切れ味が凄かった。先程使用したカラー剤も、思い通りの色に発色してくれた上に、すぐさま在庫が補充された。


 気付けばcoloréコロレの店内では、元の世界で流行っていた音楽が流れているし、セット面にはいつの間にか、とても香りのいいハーブティーが置かれている。



***



「……終わりましたよ?」


 施術を終え、エッチなお姉さんに声をかけると「ふえぇ……」と変な声を漏らしながら目を覚ます。そうして目の前の鏡を見て──


「な、なにこれ!! え? え!? これ私? これ私なの!?」

「どうでしょうか? とてもお似合いだと思いますが」

「う、うん! すごいかわいい!!」


 エッチなお姉さんがワインレッドに染まった髪を見て、嬉しそうに手櫛を通している。


「す、すんごいさらさら! 艶もすごい!! え? これは魔法? 魔法なの!? 毛先も軽くなって野暮ったくない! か、かわいい! かわいいよこれ!!」

「カラーのお流しの後でトリートメントもしましたからね。毛先も段を入れたので、切りっぱなしよりは軽さが出ています。巻いたりしたらかわいいと思いますよ?」

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 エッチなお姉さんが立ち上がり、嬉しそうに鏡を見る。


 そう、これだ。俺はお客様の喜ぶこの顔が見たくて、美容師になったのだと再認識した。


「美容師って凄いんだね! こんなにかわいくしてもらって幸せだよ!!」


 そう言って振り返ったエッチなお姉さんは、最高の笑顔をしていた。そんな喜ぶエッチなお姉さんの背後──セット面の鏡に、唐突に変化が訪れる。ぼんやりと文字や数字が浮かび、まるでゲームのステータス画面のようなものが表示されたのだ。鏡には──



名 前/Now Loading……

種 族/女神

属 性/火(エンチャントLV.1)

体 力/10→Now Loading……

魔 力/10→Now Loading……

攻撃力/10→Now Loading……

防御力/10→Now Loading……

素早さ/10→Now Loading……

魅 力/9万→9億

スキル/Now Loading……


《サポートシステム【コロクサ】より》

こんにちは。私はコロクサ。あなたのヘアサロンcoloréコロレとAI音声認識サービスAle〇aアレ〇サがいい感じに混ざり合ったサポートシステムです。今現在、データ反映に時間を頂いております。何か質問や要望などございましたら、「コロクサ」と呼んだ後で要件を言って頂ければ、対応致します。

例1.「コロクサ! 流行りのアニソン流して!」

例2.「コロクサ! 移動式サロンに変形して!」



 ──と、浮かび上がっていた。


 訳は分からないが、なんとなく意味は分かる。エッチなお姉さんが言っていたことや、鏡に浮かび上がった文字で「本当に異世界転移したんだな」と。


 深夜アニメやラノベなどでよく見る異世界転移。まさかそれに自分が巻き込まれるとは思わなかったが──


 とりあえずエッチなお姉さんより、コロクサに色々と聞いた方がよさそうだと、「HEYヘイ! コロクサ!」と言おうとしたところで、エッチなお姉さんの様子がおかしい事に気付く。相変わらずエッチな格好なのだが──


 その体からはうっすらと炎が揺らめく。


「すごい! なんかちょっと力が戻った!!」


 そう言ってエッチなお姉さんが拳を握ると、拳が燃え盛る真っ赤な炎に包まれる。鏡に現れたステータス画面を見た限りでは、「Now Loading……」が多すぎてよく分からなかったが、「属性/火(エンチャントLV.1)」と表示されていることからも、エッチなお姉さんに「火属性が付与された」のだと思う。


 体力や魔力なども、元の10から変化しているように見えるが、「Now Loading……」中なので詳細は分からない。もはや魅力が9億(そもそも元から9万もある)というのもよく分からないし、やはりこれはコロクサに色々と聞いた方がよさそうだと「HEY! コロクサ!」と言おうとしたところで、エッチなお姉さんが「魔物が近付いて来てる!」と叫ぶ。


「力が少し戻ってサーチ索敵が出来るようになったの! こっちに向かってるわ!」


 俺は「え? 魔物?」と困惑しているが、エッチなお姉さんのボルテージが勝手に上がっていく。


「このくらいの力なら世界を壊さないで戦える!!」


 エッチなお姉さんはそう言い放つと、体が燃え盛る真っ赤な炎に包まれ──


 パンツだけが燃え落ちた。


 そう、何故かエッチなお姉さんのパンツだけが燃え落ちたのだ。困った事にエッチなお姉さんはそれに気付かず、準備運動のようにストレッチする。


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