第3話 エッチなお姉さんと初体験(美容院)


 エッチなお姉さんと時には体をぶつけ合う、そんな熱い話し合いが数時間続き、ようやく現状どうなっているかが判明する。


 どうやらここは「アースクール」という世界らしい。昨日呼ばれて今日来たから、アースクールという名前なわけではない。これはたまたまアースクールだったのだ。


 エッチなお姉さんはアースクールの女神様らしく、この世界にいる「魔王」と敵対関係にあるようだ。だが、魔王もエッチなお姉さんも自分たちでは戦わない。この二人は力が強すぎて、戦うと世界が崩壊してしまうらしい。


 とりあえずこの世界は魔王が率いる魔物の軍勢と、エッチなお姉さんが率いる人間の軍勢で長い年月をかけて争っている。そんな中、魔王とエッチなお姉さんは特殊な力で異界から戦士をスカウトして来ることが出来る。お互いにスカウト出来る人数は一人。一人スカウトしてくると、そのスカウトしてきた人物が死ぬまでは、次のスカウトが出来ない。


 そうして連れて来られたのが俺である。エッチなお姉さん曰く、「戦士が集うValhallaヴァルハラ神殿」と「飲んだくれが集まるBAR、Valhallaヴァルハラ」を間違え、次元トンネルを繋いでしまったらしい。「飲んだくれか戦士かなんて、見れば分かるだろ?」と言ったが、エッチなお姉さんは「みんな私よりザコ過ぎて一緒に見える」と言って、ドヤ顔をしていた。


 肝心の俺の状態だが、どうやら「サポート職」と呼ばれる分類の力を得たようだ。これはエッチなお姉さんの力を譲渡され、「coloréコロレでみんなを幸せにしたい」「美容師としてカットは勿論だけど……ヘアカラーを極めたい!」「いずれは移動サロンも実現したい!」という、訳の分からないことを思い描いたからだ。


 通常であれば、自分がどんな戦士になりたいのかを思い描くらしい。そんなこんなでエッチなお姉さんから譲渡された力が、訳の分からない変化を遂げ……


「美容師(カラーリスト)という職業になったわけか。ちなみに君は美容師(カラーリスト)をご存知で?」

「知るわけないじゃない! 私の力だけどこんな変化したことないし! そもそも美容師(カラーリスト)ってなんなのよ!」

「え? この世界には美容師さんがいないの?」

「だから知らないって言ってるじゃない!」

「美容師ってのはお客様の髪を美しくする仕事かな。はさみで髪の形を整えたり、薬剤を使って髪の色を変えたり」

「この世界だとみんな自分で適当に切ってるし! 髪の色を変えようなんて思ったこともないから! 何よ! 全然役に立たない職業じゃない! もう殺すしかない! やっぱり殺すしかない!」


 そう叫びながらエッチなお姉さんがフランケンシュタイナーをかましたが、俺は微動だにしない。太ももが気持ちよく、いい匂いもするが、微動だにしない。


 なぜなら俺は今、猛烈に怒っているからだ。誇りを持ってやってきた仕事を「全然役に立たない職業」だと罵倒された。これは許せない。


 俺は太ももで顔を挟まれたまま、シャンプー台へと移動した。そうしてシャンプーベッドにエッチなお姉さんを寝かせ、顔にフェイスガーゼをふわりと被せる。エッチなお姉さんは何が起きたか分からず「え? なになに?」と騒いでいるが、シャンプーベッドから目に見えない拘束具のようなものが現れ、エッチなお姉さんを拘束。


 どうやら仕事をしやすいように、coloréコロレがサポートしてくれるようだ。俺の目の前では今まさに、エッチなお姉さんの体がぎっちぎちに拘束されている。


 体に拘束具がくい込んで、とんでもない姿を晒しているが──


 なぜか「な、なんで縛るのよ! 私をどうするつもり!?」と言いながら、なんだかまんざらでもなさそうなエッチなお姉さん。


「お首は痛くございませんか?」

「え? なんで話し方変なの?」

「今は仕事中ですので」


 そう、俺は仕事とプライベートを完全に分けるタイプだ。プライベートでは変態紳士だが、仕事中は紳士である。


「お首は痛くございませんか?」

「首? 首は痛くないけど?」

「ありがとうございます。それでは流していきますね?」

「え? 流す? え? え?」


 困惑するエッチなお姉さんを無視し、シャワーで頭を濡らしていく。エッチなお姉さんはシャワーを頭にかけられると、「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ」と、間の抜けた声を漏らしていた。


「熱くございませんか?」

「うん。熱くない。ちょうどいいかな。頭を洗ってくれてるの?」

「これからカットとカラーをするので、それの下準備です。では洗っていきますね?」

「ふ、ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 シャンプーを始めると、エッチなお姉さんが終始気持ちよさそうな声を出す。「痒いところはございませんか?」「流し足りないところはございませんか?」という問いかけにも「ふ、ふぁい……」「ふあぁ……」と、気の抜けた声を出していた。


 そうしてシャンプーを終え、エッチなお姉さんの後頭部を支えながら「起こしますね」と、シャンプーベッドを起こす。この際、起こしながらいいタイミングでフェイスガーゼを取る。


 シャンプーベッドが起こされ、「それではお席にご案内します」と、エッチなお姉さんをセット面(椅子と鏡のある席)へと誘導する。


 が、エッチなお姉さんは夢見心地なのか、ふらふらと足元がおぼつかない。仕方がないので手を取って案内し、座らせた。


「今の髪型でどこか気になるところや、『こうしたい』という希望はありますか?」

「ふぇっ! ええと……ちょっと毛先が絡む……かも? 髪型は今のロングヘアが気に入ってるんだぁ。でもちょっと重たい気がするかな?」

「かしこまりました。では毛先を整えて絡みを取り、少し段も入れましょう」

「ふ、ふぁい! お願いします!」


 そうしてある程度カットを進め、「お色はどうしましょうか?」と、エッチなお姉さんに問いかける。


「髪の色を変えられるの?」

「そうですね。髪色を変えることで、雰囲気や気分を変えることが出来ます。お客様は綺麗なブロンドヘアですので、お色はとても入りやすいと思いますよ。ですが今のブロンドヘアもお似合いですし、どういたしましょうか?」

「に、似合う色とかあるかな?」

「がらりと雰囲気を変えたいですか? それとも少しだけ変化を持たせたいですか?」

「うーん……がらりと変えたいかも!」

「かしこまりました。お客様の肌のお色を考えると、深みのある赤──ワインレッドなどはいかがでしょう? こっくりと深みのある上品な色味で、とてもお似合いになると思いますよ」

「お、お任せします!!」


***


 そうしてカットとヘアカラーを終え、もう一度エッチなお姉さんをシャンプーし、セット面へと戻ってくる。エッチなお姉さんは二度目のシャンプーでは大人しかったので、拘束具は出なかった。


 セット面に座ったエッチなお姉さんは「むふぅ……」と変な声を漏らしながら寝ているので、濡れた髪をドライヤーで優しく乾かしていく。


 




 

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