39話 突然の出来事

39話 突然の出来事

 先日行われた引退式から1週間が経った。今日の練習前に監督から何やら発表があるみたいで早めに集まっている。

「話ってなんだろうね?」

「新チームでの方針とかじゃないか?」

「それならもっと早くに言うんじゃないかな」

「それはそうか。合宿とか練習試合の日程が決まったとかかもそれないな」

「俺たちで考えても答えは出ないから大人しく監督を待とうなー」

 一年生たちで予想しあっていたが答えは出なかったので幸洋が言ったように監督を待つ。

 少し経ってから監督、コーチ、トレーナー、OB会の会長さん、あとは俺の記憶では見かけたことのない人が前に並んだ。

「待たせてすまない。今日は前に伝えた通り発表することがある。今日来ている方々が集まれる日を調整したので発表する日程が遅れてしまった」

 錚々そうそうたる人たちが集まったことで俺たちに緊張が走る。一体何を言われるのだろうか。

「まず最初に私は監督を退任することになった。理由としては4季連続で甲子園に出場できていないからだ。これからの鷹松商業が甲子園に出場するためにも自ら身を引くことにした」

 突然の出来事に俺たちは唖然としてしまった。そんな中で吉岡先輩が口を開く。

「いきなり過ぎますよ。監督がいるからこの学校へ入学することにしたのに。これからどうなっちゃうんですか?」

 監督の指導を請いたくて入学した者もそれなりにいるだろう。その者たちの心の整理は秋季大会までにつくのだろうか。春のセンバツに向けた負けられない試合が続く中で起用方針や練習方法が変わって数ヶ月の間で信頼関係を築けるのか不安になる。

「俺を慕ってくれてありがとう。それでも甲子園から遠ざかっている現状をどうにかして変えるべきだと思っていた。本当にすまない」

 監督は頭を下げて謝罪した。

 「これからは今日来ている雨宮祐作が監督になる。俺が高校時代の2つ下の後輩で社会人野球でプレーしていた。引退後は社会人野球チームのサンガリーの監督をしていた。雨宮は昨年度チームを初優勝に導いて監督を退任したのでその手腕を見込んで頼み込んだんだ。俺が監督を退任したからと言っても練習は見にくるし、邪魔にならない程度に指導やノックもする。顧問のままだしな笑 俺の話はこの辺にして雨宮から頼む。」

 加藤監督の役割としてはコーチになり、練習や試合を指揮するのが雨宮さんになるみたい。

「新監督になる雨宮です。いきなりのことでびっくりした子はたくさんいるでしょう。私も君たちが準決勝で負けてから加藤さんにお話を頂いたので、とてもびっくりしました。それでも引き受けたのには加藤さんの熱意が伝わってきたからです。そして引き受けたからには甲子園優勝を狙えるチームを作っていきます。今までの練習方法を基準にしながら新しいものも取り入れていく予定です。いきなり信頼されるとは思っていないので、しっかりとコミュニケーションや各選手の起用方法を伝えて少しでも信頼できるように努めていきます。これからよろしくお願いしますね」

 新たに監督となる雨宮さんからの言葉を聞いた後は、会長さんやコーチが話をしてから本日の練習が始まった。

 今日の練習は雨宮監督が各選手にアドバイスを行っていたこともあり、いつもより緊張感のある練習になった。

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