36話 準決勝 堺出商業高校⑦

 8回表の攻撃。

 木下さんに2段モーションやクイックモーションを上手く使われて、6番の星先輩、7番の山井先輩は凡打に倒れてしまった。

 実際に打席に立ってみないと分からないが映像で観た時よりも球のノビやキレが違うのだろう。それにモーションを変えてくることへの対応も難しそうだ。1打席で攻略するのはかなり厳しいと思う。それでもどうにかして同点、逆転をしなくちゃいけない。俺が回ってくるまでにランナーやアウトカウントの想定や狙い球を絞ろう。癖があると良いけど今のところ見つけれていない。

 

 2アウトになり吉岡先輩が打席に立っている。2球で追い込まれてから脅威の粘りを見せた。フルカウントまでもっていって9球目のストレートが大きく外れて四球になった。


 そして打席には龍樹が入った。味方アルプスからは凄い声量で応援をしている。

 初球のストレートを見送り1ストライクになるが、2球目のカーブを捉えてツーベースヒットを放った。

 甘い球には見えないのに、それをいとも簡単に打っているのが凄過ぎる。これで2アウトながらランナー2塁、3塁の形を作ることができた。


 ここで今日調子が良い野田先輩に回った。

 初球はクイックのストレートが外角に決まり1ストライク。2球目クイックのカットボールが内角にきて、この球を打つもネット裏へのファールボールになった。

 最後は2段モーションからのカーブ。完全にタイミングを外されボテボテのファーストゴロに倒れてしまった。


 8回裏の守備。

 龍樹のピッチングの調子も上がってきて、最速は146kmのストレートとシンカー、チェンジアップで相手のバッターに打たれる感じがしなかった。2つの三振とボテボテのピッチャーゴロに抑えてテンポ良く最終回の攻撃を迎えることになる。


 ベンチ前で今日最後になるかもしれないミーティングが行われる。

「ここまできたらアドバイスできることはない。打席に入る人は悔いの残らないようなバッティングをしよう。最後の最後、アウトが3つ点灯までは諦めないで全力プレーだ!逆転して決勝に行くぞ!」

 監督からの言葉を貰い9回の攻撃に移った。

 この回は渚先輩から始まる。俺にも打席が回ってくるから想定と対策を立てておく。


 渚先輩はストレートを捉えて左中間に良いあたり飛ばしたが少し上がりすぎてセンターフライに倒れる。


 3番の桜田先輩は7球目まででフルカウントにして、8球目のクイックモーションのカットボールを振り抜き快音が響いた。しかし鋭い当たりはサード正面のライナーになりこれで2アウト。後がなくなる。


 そして俺は打席に向かう。先輩達をここで引退させたくない気持ちや最後のバッターになりたくない気持ちなどが湧き上がっている。心でそんなことを思いつつも、頭の中では木下さんを攻略することを考えている。8回、9回のピッチングを見て確信までは至れないが僅かな違いを見つけることができていた。それを1球で仕留めるために集中力を高めて打席へ入る。

 ポジションは内野、外野ともに定位置にいる。

 初球、2段モーションのカーブを引っ張ってファールにした。

 そしてチャンスはやってくる。2球目の投球前の動作。ロジンを少し長く握り、セットしてからのタメがいつもより長い。この時はほとんどクイックモーションがきていた。そして7割くらいはストレート系の球を投げ込んでいる。

 クイックモーションから投げ込まれたのはやはりストレート。これを芯で捉えてしっかりと三遊間に転がす。打球はそのままレフトへ転がっていった。

 1塁ベースへ到達し、なんとか繋ぐことができて一安心する。

 一呼吸おいてから現状の確認をすることを忘れない。2アウト1塁。1度盗塁を失敗しているし、アウトになったらそこで試合終了になる。流石に監督もサインを出さないだろう。長打のワンヒットでホームまで還れれば良いが打球と3塁ベースコーチ次第だな。

 立川先輩が打席に入る。監督からはグリーンライト。いけたら行けのサインだ。この場面で行けるほどのメンタルはない。捕手が逸らしたら走る、あとはリードを大きく取りピッチャーにプレッシャーを掛けに行く。この2つだけに集中する。

 ストライクとボールが交互にカウントされて、ツーエンドツーになる。5球目を右中間に飛ばした。俺は3塁へ到達し、立川先輩は1塁でストップする。

 2アウト1塁、3塁になり監督が代打を告げる。3年生の遠藤先輩が打席に入った。遠藤先輩は持ち前の粘り強さを見せて四球を勝ち取った。

 球場のボルテージは最高潮に達している。

 2アウト満塁になり山井先輩の打席になった。

 初級から積極的に振っていき、大飛球のファールもあったがワンエンドツーで追い込まれてしまう。

 4球目のカットボールを捉えてピッチャー返しの打球を放つ。ピッチャーのグローブに打球があたりセンター方向からショート方向へ打球がズレる。これをショートが素手でキャッチしてセカンドに送球をした。際どいタイミングだったが塁審はアウトのジャッジ。最終回の攻撃も無得点で終わり7-8で敗れてしまった。

 先輩たちが涙を流しながら整列や観客への挨拶を終え球場を後にした。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る