35話 準決勝 堺出商業高校⑥
7回裏の守備。
センターのポジションに就き打球が飛んでくるのに備える。
先頭の5番バッターにライト前ヒットを許すと監督が投手の交代を告げた。
先程の攻撃時にベンチで赤座先輩と龍樹と監督で話しているのをぼんやりと覚えているが、投手交代のタイミングについてのことを話していたのかな。
赤座先輩に代わり龍樹がマウンドへ上がる。味方側スタンドからの声援が凄い。球場の雰囲気を変えるピッチングをして欲しい、そうした期待や願いがこの声援の大きさには多分に含まれている。俺も龍樹だったら流れを変えられると信じているし、寧ろ龍樹で打たれるなら仕方ないと思っている。とにかく俺はやるべきことをやるだけだ。
龍樹はマウンドへ向かう途中赤座先輩と少し会話していた。
「天童すまん。この回ヒットを許さない気持ちで投げ切りたかったけど打たれちまった。この後は任せた!よろしく頼む!」
「承知しました!行ってきます!」
マウンドへ着き吉岡先輩に感覚を伝える。
「今日はシンカーの調子がかなり良いです。他の球種もいつも通り投げられると思います。リードよろしくお願いします!」
「おっけー!リードは任せろ。6番は今日ヒットは出てないけど左バッターで引っ張ってくるタイプだから外角の球に手を出させて打ち取ろう。ピッチャーゴロになるかもしれないからフィールディングをしっかりやろうな」
「了解です!」
投球練習を終え、ブルペンとマウンドの感覚に差を感じることはなかった。
初球から外角にシンカーを投げ込み空振りを取った。
2球目は外角へのストレートを見逃されてボールになる。
3球目はストライクからボールになるシンカーを投げてまた空振りを取る。
4球目はカーブを投げてタイミングを外したが、かろうじてカットされた。
5球目は外角へのストレート。この球を打たれた。
4-6-3のダブルプレーを狙うが1塁塁審はセーフの判定だった。
しかしここで予想外の出来事が起こっていた。2塁塁審もセーフの判定をしていたのだ。タイミングは完全にアウトだったはずなのにどうしてなのか。これは敵、味方、観客が関係なく困惑している。
監督も事情を聞こうと選手を塁審に送っていた。
球審と2塁塁審で状況確認が行われ説明がされる。
「只今のプレーについて説明致します。ショートがセカンドベースを踏まずにファーストへ送球したと判断してノーアウト1塁、2塁でゲームを再開します」
高校野球では審判の判断は覆ることはまずありえないから切り替えるしかない。
俺はセンターから見ていたが、ベースの縁を
そして7番バッターへの初球はストレートを投げ込む。バッターはフルスイングをして快音と共にセンターへ飛んできた。
集中力を切らさなかった俺はバットとボールがインパクトした瞬間には背走をして球を追いかけた。打球は伸びていき追いつきそうだと思った時にはフェンスにぶつかっていた。そして球はスタンドへと吸い込まれてしまった。
俺は少しの間呆然と立ち尽くしていたが、我に返りポジションへ戻る。相手側のベンチとスタンドは
「監督は済んだことは仕方ないから切り替えていこうって言ってたぞ。圭介と吉岡と天童は気持ちを引きずらないようにしよう。まだ1点差だしいけるぞ!気持ちで負けるなよ!」
赤座先輩から言葉を貰って落ち込んでいた気持ちを立て直した。
ここから3人の打者をシンカーのみで3者連続三振を奪いこの回を終わらせた。
「終わったことは仕方ないから切り替えるぞ。残り2回の攻撃で1点を取るために状況に応じて代打や代走を使っていくかもしれない。初見で打つのは簡単なことじゃない。木下くんだって相当なプレッシャーがあるはずだ。各自が粘って四球を奪ったりできることをしていくぞ」
ベンチ前で監督の話を聞き攻撃に備える。
その後すぐに吉岡先輩に話しかけられた。
「天童ごめんな。その前のプレーから気持ちを切り替えられなくて7番バッターの入りが安易過ぎた。なんでストレートを要求してしまったのかと本当に後悔してる。この回は俺に打席が回ってくるから負けを消せるように精一杯のバッティングをしてくるわ!」
「いえ、俺も動揺していて球が甘くなってしまったのが原因ですよ。反省は試合が終わってからにしましょう。先輩がランナーで出たらホームに返せるようなバッティングをします。自分のミスは自分で取り戻せるように頑張ります!」
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