28話 準々決勝 小手前鷹松高校③

 7回の表の守備につく。

 監督からこの回が終わって打席が回ってきたら代打を出すと言われた。負けている展開でマウンドを降りるのは正直好きじゃない。だがチームが負ける方がもっと嫌だ。こんなところで引退したくない。この回で全てを出し切るつもりで投げ切るぞ。


 吉岡がマウンドへやってきた。

「相手のバッター全然打てる感じじゃないですし、最後3つ三振取ってノーヒットで終えましょう!」


「吉岡がマウンド来たとき大体フラグが立つからあんまり大きいことは言わないでほしいな。それでも今まで支えてくれてありがとな。1球1球大事に投げるわ」


「赤座先輩の方が最後の試合になりそうな発言じゃないですか笑 でも自分を信じてしっかり投げ込んで来て下さい!」


「おっけー!」


 この回のピッチングは最後の力を振り絞り3者三振で抑えた。今まで投げてきた中でもベストピッチングができた。そして見事フラグを折ることに成功した。



 7回裏、6番の星先輩が三遊間を抜くヒットを放つ。


「芝野が代打で速水代走だ! サインは出さんから1球目か2球目で走ってくれ! この回絶対に追いつくぞ!」


「はい!」


 ついに出番がやってきた。予想通り1点を争う展開での出番だ。相手ピッチャーはクイックが得意ではないし、キャッチャーの肩もそれほど強くない。何よりこの場面で最悪はゲッツーになることだろう。盗塁成功すればそれもなくなる。幸洋が自分のバッティングをできるように初球で絶対に決めるぞ。


 2球牽制されてからの初球。スタートは完璧ではなかったが盗塁成功。

 ワンヒットで帰れるかもしれないが大事な場面だし無理せずにいきたい。それでも3塁ベースコーチに従うだけだけど。


 そんなことを思いながらもカウントは進み、3ボール1ストライクからの5球目の高めのストレート。幸洋は豪快にフルスイングをした。芯で捉えた打球はぐんぐん伸びていきバックスクリーンへ飛び込んだ。


「ナイスバッティング! 俺が走った意味あんまりなかったな笑」


「ぶっちゃけなかったわー。でも気楽に打てたから良いスイングができたんだと思うわー」


 ベンチへ戻ると大盛り上がりだった!

 そしてこれがチームに勢いを乗せたみたいで、更に2点を追加した。


 8回表、赤座先輩に代打を出したのでマウンドには龍樹が上がった。

 俺はセンターに就き、センターの野田先輩がライトへ回った。

 慣れているポジションに就かせてもらえたのは監督の配慮だろう。練習してないポジションをいきなり任されても困ってしまうしな。


 龍樹のピッチングは相手のレベルでは打てる感じが全くしなかった。ファーストゴロと三振2つでこの回の守備は終わった。


 8回裏の攻撃。先ほどの攻撃で5番まで打順が進んだので先頭バッターは俺からだった。

 前の回からピッチャーは交代している。

 高身長で130km台後半の速球とキレの良いフォークを決め球にするピッチャーだ。

 これくらいのストレートなら芯に捉えることはできるだろうからストレートに絞っていく。相手の内野陣の守備位置は若干浅めで二遊間が広く空いているのでセンター方向へ打つ意識をする。


 初球、いきなりフォークを投げてきて、手を出さなかった。ゾーンに決まってストライク判定。


 2球目、またもフォーク。これを見逃したがストライク判定を取られた。ノーボール、ツーストライクになる。

 ここで1度間を取る。

 前の回は決め球にしかフォークを使っていなかったのに、この回は多投してきた。読みが外れた後悔をしつつも、この次の球について考えた。

 セオリーならストレートか。それともボールカウントに余裕があるしフォーク連投の可能性もある。

 悩んだ結果ストレートのタイミングで待ち、フォークをカットする方法をとった。左方向に打つ意識をして打席に入る。


 3球目、ストレートがきた。この球をセンター方向へ打ち返すもストレートの勢いに押されてショートゴロになってしまった。


 ベンチへ戻って後悔した。追い込まれる前になんとかしないといけなかったし、ストレートをカットする選択肢だってあったはずだ。結局自分の準備不足だったと痛感した。

 そんなことを思っていたが、まだ試合中で気持ちを切り替えた。反省は後で声出しをする。


 幸洋の今日2本目のツーベースヒット、吉岡先輩の送りバント、龍樹のタイムリーでこの回は1点追加した。


 9回表の守備につきながら俺も龍樹や幸洋の得点に絡みたかったと思った。

 龍樹はこの回もランナーを出さずに3者凡退で試合を終わらせた。

 終わってみれば5-1で勝利。失点はしたもののノーヒットリレーと完璧な投球内容だった。


――――――――――――――――――――

 試合後

 

「今日は途中までヒヤヒヤしたがよくやってくれた。チーム力にいくら差があっても野球はやっぱりわからないものだ。それでも逆転して勝ち切れたことは素晴らしい。次の試合の相手は甲子園に出られるくらいの力を持っているのであんまり時間はないが、しっかり研究して各自がどうアプローチしていくかチームで共有していこう。そしてあと2つ勝って甲子園への切符を手に入れよう」


 3日後に迫る準決勝に備えて今日は解散となった。

 

 

 

 

 

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