26話 準々決勝 小手前鷹松高校①

 早いもので7月下旬になり、学校も夏休みに入った。

 毎年準々決勝になるとたくさんの生徒が応援に来てくれるみたいだ。1人でも多い方が力になるし、こっちの力も湧いてくる。俺も活躍して歓声を浴びたいものだ。

 応援の力で球場の雰囲気が変わり逆転が起こることも珍しくはない。特に強豪校はヒール役になることがある。観客は追い上げの展開になると逆転を期待したり、ジャイアントキリングを期待する。そんなことにならないためにも、こっちの味方が多くの客席を埋めてもらいたい。


 試合前のノックを終えて、ベンチ前へ集合した。


「皆わかってるはずだが接戦になると思う。大事なのは先制点を取ることでこっちのペースで試合を進めていくぞ。前回までの2試合の打撃成績は一旦忘れて今日に集中してくれ。立ち上がりが良くないからしっかり球を見極めていくぞ。赤座!こっちが点を取るまでは0点で抑えてくれ!」


「監督。俺というか、俺たち投手陣は常に0点を目指してます。期待に応えて見せますよ!」


 相手の打撃陣は、クリーンナップが今大会3割5分以上の打率を残している。それでもチーム全体で単打が多いので走ってきたり、小技を使って得点を奪いに来る。


「今日はブルペンで投げてる時から調子良かったし、ゾーン勝負していくつもりだ。配球いつも通り任せたぞ」


「分かりました。序盤はストレートで押していきましょう。狙われてそうなら配球変えていきますね。ランナー出たら盗塁やバントに気をつけて下さい!」


「投げる球が調子良いからって、牽制やフィールディングでミスったら勿体無いもんな。丁寧にいくわ」


 鷹松商業は1回表の守備につく。


 1番バッターには外角へ3球連続でストレートを投げた。3球目で当ててきたがボテボテのサードゴロ。しかしこれをサードの立川が悪送球。いきなりランナー2塁のピンチを迎えてしまった。


 2番バッターは手堅く送りバントを決めて1アウトランナー3塁。


 ここは難しいかもしれないが三振を狙うしかない。俺はストレートのサインに首を振り自信のある大きく曲がるスライダーを投げ込んだ。

 投げたと同時に3番バッターはバントの構えをしていた。3塁側に転がったボールを取るもホームは間に合わないタイミングだったので仕方なく1塁へ投げた。


 監督に自信あるようなことを言っておいてこのザマだ。試合前に言っていた大事なことをもう破ってしまった。そんなことを考えていても試合は待ってくれない。

 気持ちを整えて4番バッターを三振に打ち取りベンチへ戻った。


「失点したものは仕方ない。予定外だが想定の範囲内だ。この回はストレート狙いで制球が悪かったら見逃していくぞ」


 この回の攻撃は、四球でランナーを2人出すも得点をすることはできなかった。


「試合はまだまだこれからです。球も走ってますし、打たれにくいと思います。ストレートで押していきましょ」


「吉岡を信じて投げ込むわ。よろしく頼む」


 1回が終わって0-1。試合はまだまだこれからだ。

 

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