第19話 中間試験

 GWも終わり、もうすぐ中間試験がやってくる。他の部活は休みになることもあるらしいが、我が野球部は基本的に練習がある。ただ、少し早く終わって全員で勉強する時間を設ける日もある。そういう時に先輩たちに勉強を教わって仲良くなることもできる。ただ先輩たちも自分の勉強をするため、ほとんどの時間が各学年ごとで勉強会みたいになっている。


「試験に落ちないように勉強頑張るぞ」


「えー、やりたくない」


「龍樹は、運動ができてイケメンだけど、勉強は本当にダメだよね」


「天は二物を与えずだね」


「運動能力と顔の二物は与えてもらってるぞ」


「確かにそうなんだけど。ことわざの意味は天は1人の人間にそれほど多くの長所を与えることはないって意味だから」


「そうなのか。てか佐久間たちは色々物知りだよな」


「これくらいは誰でも知ってるんじゃないかな?」


「多分? ほとんどの人は知ってるんじゃない? それよりも龍樹は勉強しないとまずいだろ。中学の時も教えるの大変だったし、佐久間たちにも手伝って欲しい」


 龍樹は勉強だけは本当にできない。野球関連の勉強はすごくやる気があって、筋肉についてや食事についての知識は専門家ではないのかってレベルで知っているし、野球の動画をよくみている。特に自分のフォームの改善には余念がない。


「先輩たちから傾向とか教えてもらって、テスト対策問題を作ってきたから大丈夫だよ」


「できないところは、覚えるまで教えるからね」


 佐久間兄弟の問題は、基礎、実践、応用の3パターン作ってきていた。基礎ができてれば赤点を取ることはないって言っている。


「全教科3種類も作るなるて、練習しながらそんな時間を取ることできるのか?」


「2人で手分けしてやっているし、授業中は暇すぎて少しずつ作ってるから時間は大丈夫だったよ」


「作るよりも龍樹に教える方が大変だと思うんだよね」


そりゃそうだ。佐久間兄弟の凄さを改めて実感した。野球部の1年生全員、おこぼれに預かれて感謝しかない。


「龍樹は、2人に任せてもいいか? 他の皆はとりあえず、佐久間たちが作ってくれた問題を一通り解くぞ」


「合点承知ー」


「やらいでか」


 3人以外は佐久間兄弟の問題を解き、分からないところは佐久間兄弟に聞いて着実にわかる問題が増えていった。俺も元々結構点数を取れそうだと思っていたが、更に知識が増えて自信もついた。


 勉強を終え、下校する時間になった時には龍樹は真っ白な灰となっていた。


 その後も勉強する日には、毎回灰となっていた龍樹だったが、試験が終わったことでテンションが上がっている。


「やっと終わったぜ。あぁ、地獄だった。だが佐久間たちありがとう。今まで1番手応えがあったぞ!」


「龍樹もなんだかんだしっかりやってくれたから自分の力だよ。」


「期末試験は大会直前で勉強する暇があんまり取れないって先輩たちも言ってたから、事前準備しようね」


「まじか。また教えてほしい」


「そう言うと思って、期末試験の対策問題だよ」


 佐久間兄弟は1年生全員に配っていた。とてもありがたいんだけど、試験が終わったばかりで次の試験のことは考えたくないよ。皆の表情も引きっつっていたり、微妙な顔をしていた。


「試験終わったらばかりなのに早くないか? ちょっとは余韻に浸らせてくれよ」


「気が緩んだ時こそ、締め直すべきだと思うんだよね」


「習慣化できそうなんだから、毎日やってとは言わないけど、2日に1回とか勉強に向き合って欲しいんだよね」


 確かに今まで分からなかったところができるようになったので、これからもできる範囲で続けていこうと思った。


 後日テストが返ってきて、1年生全員が平均点を越えていて皆で喜んだ。特に龍樹は人生で初めてこんなに良い順位を取れたと愉悦に浸っていた。

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