第18話 GW ★最終日 練習試合
GW5連休の最終日、この日は岡山の蔵敷商業との練習試合が行われる。3日目、4日目の練習で追い込んでいた。そのためかなりの疲労感が残っている。
「相手のチームを迎える形で良かったよな。バスで移動してたらパフォーマンス更に落ちるわ」
「だよね。それでも今日は、身体が重過ぎてベストパフォーマンスを出すの厳しそう。甲子園を意識しての日程なのかもしれないけど」
「こういうコンディションでも試合に出る場面はたくさんあると思う。慣れていこう」
「今日のスタメンも白田先輩以外は、レギュラーメンバーだけど早めに代えていくって監督も言ってたから、俺たちも早めに準備しようなー」
1年生はGWの厳しい日程に愚痴を言ったりしながら、着実に試合への準備を進める。
試合前のアップをしていると今日は厳しいと再認識した。その中でどうプレーをするのか走一郎は考えていた。
いつもよりも動きが良くない分、集中力が切れやすくなっちゃうかもしれない。こういう時には大きなミスが起きやすくなるから1つ1つのプレーで意識的に集中力を保つしかないな。
試合は4回までが終わり、5-0と大幅なリードを許してしまっている。白田先輩のストレートは全く伸びがなく、変化球のキレもいつもより悪い。そのため変化球は見切られてしまい、ストレートは芯で捉えられる打球が多くなってしまった。守備でもエラーや記録に残らないミスをしてしまったりと精彩を欠いている。
5回の表、監督はスタメン全員の総入れ替えを決断したようだ。
白田先輩に代わって武藤先輩が5回と6回を良い当たりをされるものの、ヒットを1本も許さない好投を見せた。
6回裏には、ベンチメンバーが俺たちのアピールの場だといわんばかりに、5連打で3点を返す。6回が終了し、これで5-3となった。
7回表、武藤先輩から山口先輩に代わった。球はあまり走っていなかったが8回までを任されて1失点。まずまずのピッチングをしていた。
7回裏に俺たち5人は監督に呼ばれていた。
「8回の裏から代打攻勢をかける。この前と同じ、速水、秀介、優介、芝野、天童の順で打席に送るから準備しておいてくれ」
「はい!」
7回裏の攻撃は無得点だった。
相手の球筋を見ていたが、ブルペンで準備をしているピッチャーがいたので交代の可能性もある。そこまで想定しておかないとな。
「3点差だし、どんな形でも出塁するから。あとピッチャー代わったらできるだけ球数投げさせたいわ」
「できるだけ粘って、球種見せて欲しい」
「おっけー!いってくるわ」
予想通りピッチャーが代わった。右のオーバースローでストレートは140kmくらいだな。ポジションは定位置より全体的に左寄りだった。センター方向に転がすイメージでいくか。
初球、ストレートが真ん中に決まってストライク。
2球目、ストレートがまた真ん中に来た。振り遅れてしまい3塁側のファールとなった。
やばい、ストレートしか見れてない。他に何の球種があるかわからないため、ストレートのタイミングで変化球が来たら当てにいくスタイルへ変えるしかないか。
3球目、スライダーがすっぽ抜けてボール。
4球目、カーブ。タイミングを外されるも何とかバットに当てた。1塁側へのボテボテのファール。
一度間を置く。ストレートとスライダー、カーブを見せられた。1打席でヒットを打つのは難しいだろう。リスクはとても高いが、相手も警戒していないセーフティバントするしかない。
5球目、低めのスライダーが来た。何とかバットに当てた。1塁線へと転がった打球の勢いは抑え切れていない。ピッチャーとファーストが打球を処理するために走ってくる。ファーストがボールを取り反転して投げた。
タイミングはかなりギリギリだった。
俺は審判を見た。
「セーフ」
どちらか分からないくらいのタイミングだったが、出塁することができて良かったと安心した。
ベンチを見る。監督のサインはエンドランだった。
打球によっては3塁を狙おう。ただ空振りもあり得るからスタートは盗塁するくらいの気持ちを持つぞ。
優介が打席に立った。牽制を1球挟んでの初球、投げたと同時に俺はスタートした。セカンドが2塁ベースカバーに入ろうとしていたため、1、2塁間が広くあいていて、打球はライト前ヒットになった。3塁ベースコーチが腕を回していたためスピードを緩めず、2塁を周り3塁へ到達した。
1塁、3塁のチャンスとなり、秀介が打席に立つ。相手の守備はゲーツーシフトを敷いている。
盗塁のサインが出る。3塁からプレッシャーをかけて、優介が盗塁しやすいようにアシストするぞ。
3塁に1球牽制してから、初球を投げた。スライダーがワンバウンドしてボール。これでランナー2塁、3塁となった。
相手の守備は定位置に変わった。
2球目、またもスライダー。アウトコースへのボールになる。
3球目、ゾーンに来たストレート。この球を打った。弱い当たりのセカンドゴロ。ファーストでアウトになる間に、ホームへ生還した。
「まず、1点返せたな」
「本当はヒットを打ちたかったけど、最低限のことはできたよ」
ベンチに戻るとすぐに、幸洋が犠牲フライを放った。これで1点差だ。
次の龍樹は、外野フライに倒れた。
疲労のためなのかは分からないが、皆いつもよりも打球に勢いがなかった。それでも1点差まで詰めることができた。
9回の表、龍樹もいつも通りのピッチングとはいかず、先頭バッターに四球を出し、左中間へツーベースヒットを許してしまった。
次のバッターはショートゴロに打ち取るもその間に1点失う。その後は三振とレフトフライで何とか抑え、1失点にとどまった。
9回裏、2アウトになったが、ヒットと四球でチャンスを作り、俺に打席が回ってきた。
相手のピッチャーは3球種しか投げていないうえ、スライダーはほとんど入っていない。ここはストレートに絞る。初球から積極的にいこう。先ほどバントをしているためサードは少し浅めに守っている。
初球、狙い球のストレートが来た。これを振り抜きセンター方向へ打球は転がった。
この打球をセカンドがダイビングキャッチし、2塁ベースへグラブトスしてアウトになってしまった。
「ゲームセット」
試合は5-7で負けてしまった。
俺は自分が最後のバッターになってしまって落ち込んでいる。強い打球が打てない非力さに無力感を感じていた。
「最後も抜けそうだったし、惜しかったよ」
「あれは相手の守備が良かった。どんまい」
「自分の持ち味出せてるし、次はいけるよ」
「次はやり返そうなー」
皆が慰めの言葉や次へ切り替えるための言葉を声掛けしてくれて、少し心が軽くなり、次はやるぞって気持ちを切り替えることができた。
「今日の試合は負けてしまったが、疲労があるなかで善戦したとは思う。だが甲子園では肉体的疲労に加えて精神的疲労もあるなかで、プレーをしないといけない。不足の事態も起こるだろう。今日もレギュラー陣が、1点あるいは2点取れていたら全然違う展開にできたと思うし、白田が1点少なく抑えていたら変わってくると思う。たらればをあげればキリがない。それでも疲労がある中で1つ1つのプレーを集中してできていたか自分の胸に聞いてみてくれ。集中した上でミスするなら練習が足りなかったと割り切ることができて、練習すればミスを減らせる。しかし集中できていなかったのならば、それは心の問題だ。そうならないために試合展開の確認、サインの確認などしっかりと事前準備をしよう。今日は勝たせてあげられなくてすまなかった。本当は勝たせて疲労がある中でも俺たちはやれるぞ、勝てるぞって自信をつけさせたかった。5月、6月も練習試合を組んでるので、次は勝てるように練習へ取り組んでいこう。以上だ」
監督の話が終わった。
俺は今日の試合で本当に集中できていたのだろうか。集中しているつもりになっていただけなのではないだろうか。最後の打席だってもっと考えていたら、ヒットにできていたかもしれないし、初球打ちしなければ四球を取れた可能性だってある。最近はうまくいっていたことで事前準備を怠っていたかもしれない。これからは慢心せずにいこうと気持ちを入れ直した。
こうして高校初めてのGWは終わりを迎えた。
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