第17話 GW ★初日 2日目 練習試合

 先週の四国大会を初戦負けした鷹松商業はGWを迎えていた。GWの予定は同じく四国大会を初戦で負けた香川の城桐高校と愛媛の末山商業の3チームで1泊2日の合同合宿を行うことになった。合同合宿といっても練習試合がメインである。


「試合の出番あるかな?」


「流石に今日と明日で2試合するし、あるんじゃないか? スタメンで出れるかはわからんけど」


「俺は桜田先輩が出るだろうし、あっても途中出場かも」


「ベンチ入りするためにもチャンスを貰ったら積極的にいこう!」


「そうだな。失敗を恐れて消極的になるよりも良いもんな」


 Aチーム1年生ズは、練習試合で活躍するためにアップからしっかりと準備を欠かさない。


 1試合目のスターティングメンバーが発表された。なんと1年生5人はスタメンで出場するみたいだ。5回か6回にはスタメンを交代することを監督は告げた。


「俺たちは5番〜9番だし、とりあえずチャンスは2打席かな。出塁できるように粘っていくわ」


「そうだな。打順の並びも走一郎、優介、秀介、幸洋、俺ってなっているし、俺たちで点を取れって気持ちが伝わってくるな。なんとしても点を取ろうぜ」


「チャンスメイク出来るように頑張るよ!」


「チャンスで打てるように頑張るよ!」


「一発狙っていくわー」


 それぞれが目標を言った。


 優介は小技やチームバッティングをよくやってくれる。秀介はチャンスに強い。幸洋は長打力に優れていて一発が狙える。龍樹は打撃センスがある。改めてこの打順で組んでくれた監督には感謝して、なんとしても結果を残したいな。


 末山商業が先攻で試合が始まった。2回まで龍樹は四球1つだけのノーヒットピッチングをしている。初回にセンターに抜けそうなあたりを優介がファインプレーをしたことも大きかっただろう。


 2回の裏、1アウトで俺に打席が回ってくる。相手の右ピッチャーは140km越えのストレートとフォークを主体に投げていた。


 コントロールは悪くなさそうなんだよな。ポジションは定位置か。三遊間の流し打ち狙うか。とりあえず追い込まれるまではストレート張りだな。


 初球、アウトローのフォーク。ワンバウンドしてボール。


 結構落差あるな。追い込まれたらあてるのが精一杯かも。ストレート待ち続行。


 2球目、ストライクゾーンにフォーク。これでワンエンドワン。


 軌道は分かってきたが、1打席じゃうまく対応できないかも。次はストレート来い。


 3球目、アウトコースのストレート。アウトローの際どい球。バットを振ったが3塁線のファールボールになって追い込まれた。


 狙い球を打ち損じてしまった。これからはストレート7割フォーク3割の意識でなんとか粘るしかないな。


 4球目、フォークが外れてボール。これでツーエンドツー。


 危ないバットが出掛かった。なんとか踏みとどまれて良かった。キレもかなり良いんだよな。


 5球目、6球目はアウトコースのストレートをなんとかカットした。


 7球目、いつもとリリースポイントが違う。何か来るかも。一瞬でそう感じるが、全く予想のしていなかったカーブが来た。タイミングを完全に外されて空振り三振してしまった。


 まじか。それは対応できないわ。


「すまん、出塁できなかった。最後のはカーブだ。結構変化量もあったから当てられなかった。優介頼むぞ」


「ありがとう。カーブも頭に入れておかないとだね」


 簡潔に優介に球筋を伝えてベンチへ戻った。


「すまん。出塁できなかった。次はチャンスメイクできるようにするわ」


「どんまい。最後のはカーブか?」


「カーブだった。タイミングも外されたし、結構変化してきたからバットに当てられなかったわ」


「初見じゃ厳しいよなー」


優介は四球を選んだが、秀介がフォークを打たされファーストゴロに倒れた。


「龍樹、次の回も頼むぞ」


「飛んだらよろしくな」


「おう!」


 龍樹は3回の2アウトからヒットを許すも、後続を打ち取った。


「ヒット打たれちまったぜ」

 龍樹はちょっと残念そうにしていた。


「そういえば、そんなにイニング回数を投げていないけど、練習試合の登板で初被安打だもんな。そのあとしっかり切り替えられていたし、このままノーヒットだとどこかでプレッシャーが掛かるようになるかもしれないし良かったんじゃね?」


「投げるからにはヒットを1本も許すつもりはなかったが、逆に良かったかもしれんな。走一郎も次の打席結果出せよ!」


「おう!」


 龍樹がネクストバッターサークルに向かっていると快音が響いた。打球はグングン伸びていきスタンドへ入った。幸洋は全力疾走でダイヤモンドを回った。


 皆で幸洋を出迎える。


「ナイスバッティング!」


「高校通算第1号おめでとー!」


「打球エグ過ぎるって」


 ベンチで皆が盛り上がっていると、龍樹もツーベースヒットを放っていた。


 すまん、見逃した。だけどナイスバッティング。


 そのあとランナー2塁、3塁のチャンスを作るが得点には結びつかなかった。次の回は先頭バッターだからどうするか考えておかないとな。


 4回表、2巡目の上位打線で、龍樹はシンカーを解禁し、3者連続三振を奪った。


 4回裏、すぐに準備をして打席に向かった。ここまでピッチャーは、ストレート、カーブ、フォークだけしか投げていない。もう隠し球はないはず…だよな? 流石にやめてくれよ。自分のやるべきことはどんな形でも出塁すること。それだけだ。

 しっかりと現状の確認をする。ポジションは定位置より少し後ろだ。幸洋がホームランを打ったことや龍樹が長打を打ったことに加えて、5番に入っていることで長打があるかもと思われているかもしれない。


 初球絶対にセーフティバントを決めるぞ。カーブの見分けはつくため、フォーク以外を投げてくれれば決められるはずだ。


 初球、フォームはストレートかフォークだ。ストレート来いと思いながらバントの構えをする。


 アウトローのストレート。この球をうまく3塁線に転がした。ピッチャーが取った時には1塁ベースに到達しそうな勢いで走り、余裕のセーフだった。奇襲を成功させて喜んでるのも束の間、これからが見せ場だ。


 サインを見る。グリーンライトか。初球でじっくり観察したいため、リードを大きく取る。


 3球牽制させたあとに、初球を投げてストレートのストライク。牽制の時に左足のつま先が開いているような気がする。タイミングも大体掴めた。ストレートの後に変化球投げることが多かったし、次に盗塁を狙うか。


 先ほどよりも少しリードを小さくしたが1球牽制された。2球目、投球と同時にスタートした。フォークボールがワンバウンドしてキャッチャーは2塁に投げるも余裕でセーフだった。


 ここからは無理に盗塁を狙わず、ワンヒットで帰れるような走塁のイメージをする。試合前にチェックしたところ、ライトとセンターは肩が強いがレフトはそこまで強くはない。打球によってはホームを狙うぞ。


 優介は1球見極めて、ツーエンドワンとなる。振るなら次の球だよな。


 4球目のカーブを捉えてセンター前ヒットを放つ。俺は3塁ベースコーチャーのストップの判断に従い止まる。センターへ抜ける打球も速く、ホームへの送球はストライク返球だったため、行ってたら多分アウトだっただろう。止めてくれてありがとうございます。


 続く秀介は、初球を捉えて左中間真っ二つのツーベースヒット。俺は無事ホームへ生還した。


「ナイス追加点!」


「ナイスラン!」


 チームメートとハイタッチを交わした。


 その後、幸洋が三振、龍樹の犠牲フライで1点を追加して、3-0とリードした。


 5回表、1アウトから連打を許し、1塁、2塁となるが、三振と外野フライで切り抜けた。


 5回裏、相手のピッチャーは交代し3者凡退となり打席は回って来なかった。この回で鷹松商業はスターティングメンバーを総入れ替えしたため俺たちの出番は終わった。


 試合は鷹松商業がリードした展開で進み、5-1で勝利した。


「今日はレギュラー以外のメンバーだけで試合をして勝つことができた。ベンチメンバーが活躍することでチームとしても層が厚くなるからガンガンアピールして欲しい。明日の城桐高校戦は、レギュラーメンバーをスタメンで使う予定だから準備しておいてくれ。GWの残りの試合も全勝しよう。以上だ」


監督が締めて、午後の城桐と末山商業の試合を見学した。


「俺たち結構アピールできたよな」


「皆、それぞれ持ち味を発揮できたし、明日も出番があったら積極的にいこうよ」


「一発狙うわー」


「それはいつも通りだろ笑 それに打席に立てるとは限らんぞ」


「いつ出番が来ても良いようにアップから全力でやろう!」


「了解!!」


こうしてGW1日目は、あっという間に終わった。


〜2日目の城桐戦〜


 7回までが終わり4-0でリードしている。赤座はここまでパーフェクトピッチングをしていた。チェンジアップがうまく決まるようになり、投球の幅が前とは比べ物にならないくらい違ってきている。


「今日は出番なさそうだな」


「龍樹はそうかもな。俺たち野手陣はどこかで、代打があるかもしれないから心の準備は怠らないぞ」


「おっけー!」


 龍樹も序盤は肩作る指示があったが中盤以降は誰もブルペンで投げていない。今日は赤座先輩だけでいくつもりのようだ。


 8回2アウトまでパーフェクトピッチングだったが、9番がセカンドの頭を越えるポテンヒットを放ち、完全試合はなくなった。それでも最終回まで1安打しか打たれなかった。


 結局、俺たちの出番はなく、スタメン全員がそのままで続けた。赤座先輩が良いピッチング過ぎて雰囲気的に代えづらかったのかもしれない。アピールは次の機会へ持ち越しだ。


 1泊2日の合同合宿は無事終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る