第16話 四国大会 ★初戦 後半戦

 6回表、1アウトから2番の渚先輩がセンター前ヒットを放つ。果敢に盗塁を試みるもキャッチャーの送球が良くアウトになってしまった。3番の桜田先輩はここまで2安打を放っていた。相手投手は無理な勝負をせず、四球となった。続く4番の新川先輩は、レフトへの大きなフライを打つもフェンスギリギリで失速。相手のグローブに収まった。


 6回裏の守備。2アウトまで順調に来たが、9番に10球粘られて四球を与えてしまった。


 相手に根負けしてしまったな。一守には2安打されてるし、ここがターニングポイントになるな。


 初球は大きく曲がるスライダー。アウトコースに決まってストライク。


 2球目はアウトローへのストレート。少し外してボール。


 3球目はインコースへ大きく曲がるスライダー。これを捉えられてセンター前ヒットされる。


 どんな球を投げてもしっかり捉えられてくるんだよな。打たれるのは仕方ないから次のバッターに集中しよう。


 続く二ツ神に対しての初球。大きく曲がるスライダーを投げる。アウトコースのボール球だが踏み込んで打ってきて、レフト前に落ちるヒットになった。


 ここで監督からの伝令により内野陣がマウンドへ集まった。


「大事な場面なので、一旦空気を変えるために来ました。普段通りやっていこう。ここで抑えたら流れ変わるぞ。チアの子も釘付けかもな。(監督のマネ) 以上です」


「チアの奴は監督は言わないだろ」


「監督マネ上手くなったな」


「リラックスできたありがとう」


「よし!ここ抑えるぞ!」


「おー!」


 だが今日3安打放っている三刀屋は甘くない。


 初球のストレートを左中間に完璧に打たれ走者一掃の2ベースヒットを放つ。


 くそ。どんな球でも捉えやがって。イライラしそうになっているが、心を乱してはダメだ。投球に影響を与えてしまう。こういう時は6秒ルールだ。怒りの気持ちを出さないように1から6まで数える。よし切り替えるぞ。


 そのあとのバッターから三振を奪った。


 ベンチへ戻るとすぐに謝る。


「すまん。また打たれた」


「こっちも点取れなくてすまない。5点差になったがチャンスはまだまだあるはずだ。各自ができることをやっていこう」


「失点は仕方ない。切り替えるぞ。チャンスは作れてるから1点ずつでも返していこう」

 監督の言葉に俺たちは気持ちを入れ直す。


「おー!」


 7回表、1アウトから3連打で1点を返すことができたが、相手の監督はすぐに右の変則投手を登板させる。こちらも9番の赤座先輩に代わって、代打の木下先輩がバッターボックスへ入る。2球で追い込まれてしまい、アウトローのカットボールを打たされて併殺打になってしまった。この回は1点の追加点に留まった。


 7回裏、赤座先輩から白田先輩への継投。5番から始まる攻撃を良いあたりをされながらも3人で抑えた。


 8回表、1番の野田先輩が四球で出塁し、2番の渚先輩が送りバントを決める。3番の桜田先輩が2ランホームランを放つ。その後もチャンスを作るが相手の投手に粘られて追加点を取ることができなかった。だがこれで4-6の2点差まで縮まった。


 8回裏、8番にヒットを打たれるが、9番をショートゴロの併殺打に仕留めた。あと1人で9回の最後の攻撃になるのだが、ここからが難しい。


 赤座先輩でも抑えきれなかった打者たちを俺が抑えることができるだろうか。

 不安な顔を察したのか吉岡がマウンドへ向かう。


「赤座先輩でも打たれたから抑えられる自信がないのか?」


「正直いうとない。だけど遥希を信じてミットに投げ込むしかないと思ってる。いつも通りリードしてほしい」


「一輝は俺のことをいつも信用してくれてありがとう。どんな形でもこのバッターを押さえて、逆転しよう」


 試合再開後の初球、渾身のストレートを投げ込む。だが一守は待っていたと言わんばかりにフルスイングをした。打球は右中間へ飛んでいく。センターの野田が必死に走りダイビングキャッチをした。


 ベンチ、スタンドは大盛り上がりである。


「野田先輩ありがとうございます!」


「ライトがカバーにいってるのが見てたし、ここで取ったらもっと流れが良くなると思ったからチャレンジして良かったわ。こっから逆転しような」


「はい!」


 9回の表、8番の吉岡先輩から始まる攻撃。9球粘るも外野フライに打ち取られてしまった。


 9番の白田先輩に代わって代打の切り札である海堂先輩が打席に立った。初球のカットボールを三遊間に鋭いあたりを放ちヒットになる。すぐさま代走が送られた。


 なんとここでピッチャー交代。左のスリークウォーター投手がマウンドへ上がった。

 1番の野田先輩は、フルカウントまでもっていったがチェンジアップでタイミングを外されセカンドゴロで併殺崩れとなった。


 2番の渚先輩は、2球目のストレートを捉えたがセンター正面のライナーに倒れてしまった。


「ゲームセット」


 鷹松商業は、4-6で鳴戸高校に敗れてしまった。


「後半の流れは完全に俺たちだったんだけどな」


「中盤までに追加点を取れなかったのがキツかったよね」


「あの1番から3番までは2年生だから来年も対戦しないといけないから強敵だな。龍樹、抑えるイメージ湧くか?」


「対戦してみないとわからない。だがどんなバッターでも打てない球はある。今日の赤座先輩にたまたまタイミングが合っただけかもしれないしな。結局どんなバッターと対戦しても、絶対に抑える気持ちとそれまでにどれだけ自分の球に自信を持てるかが重要だと思う。選手権大会を勝ち抜いたら甲子園であたるかもしれない。そのために俺たちもレベルアップしよう!」


 スタンド組の俺たちは、すぐに荷物をまとめて球場の外へ集まった。整列して監督の話が始まる。


「今日は予想外の展開になった。勝負だから勝ち負けはついてしまうが、追いかける展開だと段々と焦ったりしてきて、普段通りのプレーができなくなってくる。中盤までに1度追いつきたかったな。私自身も選手を信じてサインを出すが、それが上手くいくとは限らないし、私の中では最善策を出しているつもりだ。それでも負ければ私の責任だと思っている。すまなかった。3年生は次の選手権大会が最後だ。あと4ヶ月弱、甲子園決勝までいって日本一野球を長く楽しんだチームにしよう。GWの予定がなくなったため、練習試合を打診してみる。各自、今日の反省点を活かせるように練習に取り組んでいこう。以上。キャプテンは何かあるか?」


 桜田は前へ出る。


「俺たち3年生は次の選手権大会で最後になる。公式戦は最大でも10試合か11試合くらいになるだろう。俺はこの同期たちと後輩たちが同じチームで良かったと思っている。残り少ない時間だけど、悔いの残らないように練習に取り組もう。そして全国制覇しよう!」


 監督とキャプテンの話で沈んでいたチームの雰囲気は良くなり、各自が次へ進もうと気持ちを切り替えた。

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