第14話 四国大会 ★大会前日

 大会前日から愛媛県に前乗りをする。初めての遠征で泊まりということもあり、1年生はテンションが上がっていた。


 バスでもちょっとだけ盛り上がっていたら先輩に怒られてしまった。あからさまにテンションは下がり、そうしているうちに宿へと着いてしまった。着いた後に、俺たちの時もそうだったから気にするなよって言っていたので毎年のことなのだと知ることができた。俺たちも来年は怒る側なのかなって思った。


 宿に着くと夕食の準備や片付け、明日の準備、雑用などベンチメンバー以外の先輩から教えてもらい1つずつ覚えていく。


「暇になるとは思っていませんでしたが、結構やることがあって大変なんですね」


 リトルリーグの時は親やコーチたちがかなり準備していてくれたし、陸上の時は大会に行っても持ち物も少なく個人で泊まっていたので、チームで行動するってこういうことなんだなと新鮮な気持ちになった。


「ベンチメンバーが明日にベストを尽くせるためにもこういう裏方の仕事で心配させちゃダメだからね。慣れてくると時間配分も分かってきて効率的に出来るようになると思うよ。うちのチームは、昔あったような理不尽な上下関係はほとんどないし、そういうことがあったら監督やキャプテンに報告して双方の話し合いをするから安心して良いよ。軽いノリでやったしまったことでも、人それぞれ考え方は違うからしっかりと話し合うようにしているんだ」


 江藤先輩は、雑用などを教えながら色々な話をしてくれた。優しくて分かりやすく説明をしてくれたので、とてもありがたかった。


「色々ありがとうございます。分かりやすい説明だったので覚えることができました。江藤先輩に教えてもらえて良かったです」


「速水はすぐに覚えてくれるからこっちも早く終われて良かったよ。もう結構遅い時間だけどね笑。明日も朝は早いからゆっくり寝なよ。1年生は初遠征で盛り上がってなかなか寝れないと思うけど笑」


 江藤先輩と分かれて1年生全員がいる大部屋へと向かった。


「おつかれー」


 1年生の何人かは戻ってきており談笑していた。


「結構やることあってこんな時間になっちゃったな」


「他の奴らはまだ戻ってないし、俺らは結構ラッキー組だけどね」


「そうだな。先輩が分かりやすく教えてくれたことに感謝しようぜ」


「俺たち明日出ないし夜更かししちゃおうぜ」


「良いね!」


 初めての遠征でやっぱり皆も夜更かししたいみたいだ。駄弁だべっていると龍樹が戻ってきた。


「おつかれ」


「おつかれー。結構時間掛かったな」


「雑用は割と早めに終わったんだが、先輩と野球談義をしてたら遅くなっちまったぜ」


 龍樹は野球談議をしていたようだ。俺はその考えに至れなかったことを心の中で恥じた。早く終わらせたいという気持ちや部屋に戻ってきて仲間と喋りたいとかそういうことしか考えていなかった。なによりも練習中にレギュラーの先輩には聞きに行っていたのに、ベンチ外の先輩には聞かなかったことをとても失礼なことをしてしまったように感じ、申し訳ない気持ちになった。


「そうだったんだ。こっちは早めに終わったから駄弁ってたんだ。夜更かししようぜって話してた」


「はっ? 明日、明後日も大会なんだし、早く寝るぞ」


「いやいやー、そんなに怒るなよー。俺たちは試合に出ないんだし、ちょっとくらい良くないかー?」

 川島が緩い感じで龍樹に言った。


「怒ってはいないぞ。夜更かしするかしないかは人それぞれだと思うし。でもレベルの高い試合をスタンドから観ていても学べることはあるからさ。途中で眠くなって集中して試合を観れなくなったら勿体無いから、明日は1つでも多く学べるように俺はすぐに寝るからな」


「そうだよな。俺たちは野球が好きで上手くなりたくてやってるんだもんな。ごめん俺も早く寝るよ」

 鈴木が申し訳なさそうに言った。


「俺もちょっと熱くなってすまなかった。時間を決めてちゃんと寝るって約束してくれるなら少し駄弁るか」

1年生内の団結力が上がるなら良いか。


「天童ありがとー。30分だけ駄弁ろうぜ。皆もいいかー」


「おっけー!」


 ちょっと揉めそうになったが、こういうところがまとめ役に向いているんだよな。皆の団結力は上がっているし、野球への向上心も上がってるはずだと思う。前から思っていたが、龍樹の野球への貪欲な姿は憧れる。俺もそうなれるように考え方を改める必要があるな。


 高校に入ってきて着実に考え方が変わってきているが、走一郎はまだまだ足りないと思うのであった。

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