第13話 投手陣談議

 赤座先輩を中心とした投手陣9人は屋内練習場でピッチングやトレーニングについて話し合いをしていた。


「これからの選手権大会を勝ち進むには、投手陣がどれだけ失点を抑えられるかが鍵になってくる。この前の決勝戦みたいにいきなりリリーフしたとしても焦らずに自分の力を出していけるようにしよう」


「点差もあったし、準備もしてたはずだけど決勝戦で緊張してたのかもしれないな。選手権だと俺たちは最後の大会で負けられないプレッシャーもかかるし、甲子園までいけたら尚更だと思う」


「自分も相手の追い上げムードになって萎縮してたかもです。ストライクが入らなくて焦って甘い球を投げてしまい、打たれてしまったことは反省点です」


「元はと言えば、赤座先輩から代わって流れを悪くしてしまった俺がいけないです。すみません」


「監督も経験のために全員出したいって言ってたし、これからは出番がなさそうでもしっかりと準備をしていけば大丈夫だと思う。投球練習や試合形式ではみんなコントロール良く投げられてるから試合でも普段と同じようにリラックスしていこう」


「おう!」

 それぞれ自分たちの課題に向かってトレーニングを始める。


「天童、ちょっと良いか?」

 赤座先輩が声を掛けてきた。


「どうしたんですか?」


「変化球を1球種増やしたいと思ってて冬の時期から試行錯誤してたんだけど、なかなか上手くいかなくて、握りとかアドバイスして欲しいんだ」


「そうなんですね。確かにスライダー以外でタイミングを外せる球か落ちる球があると投球の幅が広がりますもんね。チェンジアップは色々な握り方を試したんですが、親指と人差し指が縫い目に沿う形で握るとストレートと同じフォームで投げることができたので、この形で落ち着きました。シンカーは中指と薬指を挟むようにして、中指を外側の縫い目にかけて握ってます」


「ちょっと試してみるわ」

 赤座先輩は新しい握りをキャッチボールから試すようだ。


 赤座先輩と変化球談議をしていたらトレーニングをしていたはずの皆が集まって来ていた。


「俺たちにも変化球のアドバイスしてほしい」

 みんな頷いている。


「俺がやってることなら教えますよ。常に意識してることは、ストレートと同じリリースポイントで腕をしっかり振り切ることですね。曲げようと思ったり、球速を遅くさせようと思うと投球フォームが変わってきて、元々固めてたフォームを崩しちゃうかもしれないので、合わないと思った変化球は、練習しない方が良いです。冬場とかにじっくりフォームを固め直すなら色々な変化球を試した方が良いですね」

 こんな感じでそれぞれの質問に答えていった。


「こんなことを言うのも違うかもしれないけど、ベンチ入りを争うメンバーなのに、なんでそんなに色々と教えてくれるんだ?」


「投手をやってる全員がそうなのかは分からないですけど、結構エゴイストが多いと思うんですよ。自分も目立ちたいと思ってますし。そのために誰にも負けないくらい努力をしているつもりです。でも自分が3年間ずっとマウンドで投げ続けるのは不可能なので、チームが甲子園優勝するために他の投手も全国で通用しないとどこかで負けてしまいますよね。負けないためにも色々な情報共有をすることで各自がレベルアップして、負ける可能性を1%でも下げたいと思ってます。もちろん自分も今のままでは、県大会の上の方や全国で通用するとは思ってないので、これからもレベルアップしていくつもりです。生意気ですみません」


「いやいや、俺たちは教えてもらえてありがたいし、天童がチームを勝たせたいっていう気持ちとかも話してくれてありがとう。俺もマウンドに立つからには今まで以上に責任を持って投げるから信頼してくれよな」


 こうして変化球談議はとても盛り上がった。それ以外でも色々な話をして、投手陣の向上心アップやあんまり積極的に話していなかったメンバーともしっかりと話すことで、投手陣の団結力は高まった。

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