第12話 普段の練習

 平日の練習は他の部活との兼ね合いで、グラウンドを全面使用できるのは2日間だけである。そのためピロティや室内練習場、筋トレルームなどの限られたスペースを活用し、工夫して効率的に練習を行っている。


 Aチーム、Bチームと分かれているが遠征の時以外は5つのグループに分かれて、試合形式、打撃、守備、走塁、フィジカルトレーニングなどのメニューをローテーションで実践している。集中力が切れないように短い時間でローテーションする。

 特に試合形式の練習を大切にしていて、試合中の判断能力を養うためである。


 毎日野球ノートを書くのだが、そこには日々の反省や翌日の目標を書いたりする。

 俺の反省点は、140km以上の速球に対応できていないことや声掛けのミスでお見合いをしてしまったことやボールを取ってから送球を素早くすることである。


 投手を中心に守り勝つ野球がチーム方針なので、まずは打撃よりも守備の改善をしていこうと思っている。漠然と練習するのではなく、明確な目標を持つことで少しずつだが良くなってきている実感がある。声掛けは普段していても球場の歓声で聞こえなくなる時もあるので、そのようなことを想定して練習をしている。声掛けをしていても交錯やお見合いをしてしまうことがあるだろうが1回でもミスを減らすことはできるはずだ。そしてエラーはチームの雰囲気を悪くするし、投手のリズムにも影響を与えてしまうかもしれない。だから外野の捕球練習をする時は、いつも集中力を高めている。自分の中の場面想定をして、ランナーの有無による捕球の仕方に違いを持たせることや意図的にスタートを遅らせて球際で捕球する練習を行っている。実際にやったことがあるかによって本番でできるかに関わって来ると思っているからである。

 ただダイビングキャッチは失敗すると地面に打ちつけられた感じになるのでめっちゃ痛いのでやる場面があまり来ないことを願っている。


 今日は日曜日で来週には四国大会があるため学校で練習だ。

 同じグループに外野でレギュラーの新川先輩と野田先輩がいたため色々アドバイスを貰おうと考えた。


「野田先輩と新川先輩、守備について聞きたいことがあるんですけど次の休憩時間の時に良いですか?」


「速水か。了解した。打撃練習が終わったら話そうか」


「俺も野田先輩と一緒の時に聞くぞ」


 断られなくて良かった。やっぱりチームの風通しが良いと話し掛けやすくて助かるな。走一郎のグループは、体幹トレーニングと打撃練習をこなした。


「それで聞きたいことってなんだ?」


「後ろに飛んできたフライの落下点に素早く入れないのと、送球までの動作に時間が掛かってしまうんですけど、どうしたら上手くなれますか?」


「とにかくたくさんフライを取る練習をすることだと思う。俺の場合は打球の距離感はたくさんノックを受けて慣れていったから。送球までは落下点に入って余裕がある時は、半身になって投げやすいようにしているぞ」


 新川先輩は練習量で身体に覚え込ませるタイプのようだ。


「俺も練習量は大事だと思う。それ以外だと落下点に向かう時に半身になってボールから目を切らないようにすることだと思う。天候によって見にくくなることや上空の風で流されることもあるからしっかりと最後まで見ておくことが大事だな。送球だとカットマンがどこにいるのかを見たり、見れない状況だったら予想を立てたりすることや自分の中で試合状況を整理して次に投げなければいけない場所へ体の向きを向けておくと良いと思うぞ。肩の強さは人それぞれだけど、俺の場合は、すごく肩が強いわけじゃないからカットマンに投げるのか、直接ベースに投げるのかを打球の距離によって自分で決めるようにしているな」


 センターを守る野田先輩は打球が飛んでくる前からの準備をしっかりしているみたいだ。


「アドバイスありがとうございます。午後の守備練習の時と試合形式の時に意識してやってみます」


 自分の考えだけでなく、色んな人から意見を聞くと自分とは違った視点だからとても刺激になるし、参考になるな。


「俺からも速水に質問いいか?」

 新川先輩が尋ねてきた。


「いいですよ。」


「走塁や盗塁の時にどんなことを意識しているのか聞きたい。俺は足が速くないから盗塁のサインはあんまり出されないけど、長打の時に2塁まで行くのか、1塁で止まるかの判断やキャッチャーがボールを弾いた時に進塁するべきなのか迷ってしまうことがあるからそこら辺を改善したいんだ」


「自分は長打を打てないですし、野球経験も短いので、上手く伝えられるか分からないですけど、自分が普段やってることは相手の選手の力量をビデオや試合前の練習で確認することをしています。ピッチャーならコントロールや速球の速さを見て、投球に癖がないかチェックしてます。他のポジションの選手は肩の強さ、送球の正確さを見て進塁できるのかを考えてます。あとはベースコーチャーとの擦り合わせをしっかりやって、goやstopを信頼することですね。自分が打球の行方を見れていなくても足の速さをしっかりと分かってもらえていれば走塁ミスも減ると思います。その上で好返球をされてアウトになってしまったら割り切って気持ちを切り替えてます。新川先輩はすごく足が遅いわけじゃないので、相手のバッテリーが警戒してなかったら盗塁狙ってみても良いんじゃないですか? 隙があると焦ってバッテリーミスも誘えるかもしれないですし。スタートのタイミングは投手の癖を見抜くことですね。重心や目線、グローブの位置とか人それぞれ癖があると思うのでよく観察してみて下さい。ただ単独スチールで失敗したら怒られるかもしれないのでちゃんと監督には事前に狙う理由を伝えて下さいね」


「速水ありがとう。改善できそうなところからやってみるわ。午後練も頑張っていこうぜ」


「俺も聞いていたが、とても参考になった。これからも意見交換していこうか」


「こちらこそ休憩時間にわざわざありがとうございました。またよろしくお願いします」


 先輩たちとしっかりコミュニケーションを取れて安心した。これからも色んな人から意見を聞いてみようと決意した。


 その後の守備練習、試合形式では意識して頭と身体を使って有意義な練習を行うことができた。これからも継続して上手くなっていきたいと思った。

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