第10話 新体力テスト ★屋外編

 入学をしてから3週目に入った。今日と明日の体育の授業で新体力テストが行われる。


 俺は両親と朝食を食べていた。


「今日と明日の体育の授業で新体力テストするんだ」


「そうなのか!俺も高校の時は、1番を目指したものだ。50m走と反復横跳びしか1番は取れなかったがな」


「へぇー。父さんでも学年で1番は2つしか取れなかったんだ」


「ん? 全国で1番だぞ。1500m走と長座体前屈とハンドボール投げ以外は学校で1番だったな」


 いや、サラッとやばいこと言ってるんだが。これがオリンピック選手の実力かー。凄すぎて言葉を失った。


「……お、俺、無理しないように頑張ってくる…」

 呆然としている中で、これが精一杯の言葉だった。


「パパは規格外なんだから走ちゃんは、走ちゃんなりに頑張れば良いのよ」

 母さんはいつも優しく言葉を掛けてくれる。


「ありがとう」


「走一郎。ママの方が規格外だったぞ。全部の種目で全国1番だったからな」


 えっ、、思考は停止していた。


 母さんもオリンピック選手ということか。俺、中学の時も学年1番を1つも取ることが出来なかったのに。切なくなってきた。


「母さん、そんなに凄かったの?」


「若気の至りよ。同学年に凄い人が生まれなかっただけじゃない?」


 あなたが凄い人だと思います。心の中で尊敬してしまった。


「父さんと母さんのレベルが違いすぎて泣きたいよ」


「走一郎は、まだ3回チャンスがあるんだから大丈夫だぞ。頑張れ!」


「走ちゃんは、自分の出せる力を発揮すれば良いのよ」


 いや父さんよ。何が大丈夫なのか説明して欲しい。

 母さんいつも応援ありがとう。頑張ります。


「ベストを尽くしてくるよ。行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 2時間目の授業が終わり、次は体育の授業だ。いつものように4人で移動をしている。


「みんな何が1番自信ある?」


「俺は上体起こしかな。腹筋は毎日やってるし」


「俺も弥一と同じだわ。あと長座体前屈は割と自信ある」


「士郎は体柔らかいもんな。上体起こしはみんな自信あるんじゃねーか? 俺は握力と持久走、ハンドボール投げは結構いけそうだわ」


「龍樹は投手に必要な要素があるものはいけそうだよな。俺は50m走と反復横跳びだけは頑張るわ」


 今日は外の種目をやるため、50m走、1500m走、ハンドボール投げ、立ち幅跳びが行われる。

 テストはペアで記録を取り合うので龍樹と組むことにした。


「よろしくな。ズルするなよ」


「よろしく。するわけないだろ。寧ろ回数少なくしてやろうか?」


「それは勘弁して。正確に測ってよ」


 軽口を叩き合いながら最初の50m走を行う。これは先生がタイムを測るため龍樹もズル出来ないだろう。


 出席番号順で行うため、龍樹が先にスタート位置で待機している。

 旗が振り下ろされたと同時に走り出す。


 かなり良いスタートが出来た。そのまま上手く加速していきそのままゴールした。結構良い感じに走れた気がするぞ。


「天童、6.3秒!」


 先生が大きい声で告げるとクラスは盛り上がる。良いタイムが出ると自然と注目されるんだよな。だけど、この後走る走一郎は俺よりも速いぞ。


順調に進んでいき、やっと走一郎の番が来た。


 スターティングブロックがないと自己ベストは更新できないと思うけど、龍樹より良いタイムを出すぞ。


 旗が振り下ろされてスタートした。スタートダッシュからの加速は、何千回、何万回とやって来たため完璧である。そのまま勢いに乗りゴールした。

 かなり手応えあったかも。


「速水、5.8秒…」


 先生、あんまり声出てないですよ。

 あれ、龍樹の時と違ってあんまり盛り上がってないぞ。クラスの人を見てみると唖然としていた。小さい奴が1番速いタイムを出したため、驚いて声が出ていなかったみたいだ。

 そして先生も測り間違えたかと思って、俺とタイマーウォッチを交互に見ていた。


「クラスで唯一の5秒台だね。おめでとう」


「学校でも5秒台は他にいないんじゃない? しかも靴は学校指定の奴だから、もう少しタイム伸びそうだよね」


「50m走で勝てると思ってなかったし。他の種目は負けないからな」


「ありがとう。ほぼ自己ベストだけどな。他の種目は、このメンバーに勝てそうなものはあんまりなさそうだぞ」


 4人で雑談していると最後のクラスメイトが走り終わったようだ。みんなでトラックに移動する。

 次の種目は、1500m走だ。今回はペアで先に走るか、後に走るかを決める。


「俺、先に走っても良いか?」


「良いぞ。俺は朝礼台の近くでタイム見てるわ」


龍樹は、半分のクラスメイトと共にスタート位置へ立つ。1番前の良いポジションを取れたみたいだ。


 先生の掛け声で一斉にスタートした。


 普段から5km〜10kmくらい走り込みをしているから1500m走は余裕があるな。序盤からペースを上げて追い込んでいくか。ハイペースで走っていると段々と先頭集団は減っていき、1kmを過ぎる頃には陸上部の加藤と一騎打ちになった。やっぱり長距離をやってる奴は、体型や走るフォームに無駄が少ないな。ここからのラストスパートは前にいればスプリント勝負で勝てるな。最後まで加藤の前に出てそのままゴールした。


「お疲れ様ー。天童は凄く速いね。スプリント勝負じゃ勝てないと思ったから前に出たかったけど、ついていくので精一杯だったよ」


「お疲れ。加藤はこの距離よりももっと長い方が得意にしてるだろ。走り終わった後もすぐに息を整えててあんまり疲れてなさそうだし」


「そうだけど、陸上部として走るからには勝ちたいんだよ」


 加藤と話しながら朝礼台へ向かった。


「龍樹お疲れ。4分42秒だったぞ。最後のスプリントやばかったな」


「勝ちたかったから本気出したわ。走一郎も頑張れよ」


「行ってくるわー」


 後半の組がスタートラインへ向かう。とりあえず行けるところまでは集団についていくか。ほどほどに頑張るぞ。


 先生の掛け声でスタートした。


 中盤までは集団についていくことができたが、ラスト500mになってから集団のペースが上がりついていけなくなった。ここからは自分のペースで頑張るか。先頭との距離は結構離されてしまったが後半組の6番目でゴールすることができた。

 それなりにやれたかな。そう思いながら龍樹の元へ向かった。


「お疲れ。5分6秒だったぞ。満点はなくなったな」


「あっ、そうか。10点は4分59秒以下だったっけ?」


「そうだぞ。惜しかったな」


「もうちょっと足が長ければ行けたんだけどな笑」

 自虐しつつ、次の種目へ移動した。次も龍樹が得意と言っていたハンドボール投げだ。


 俺は1回目27m、2回目30mだった。ハンドボールに慣れて肩を温めたら、あと2m〜3mくらい伸びそうだった。

 龍樹は得意というだけあって1回目40m、2回目42mだった。


「3種目連続で満点とか、怪物すぎるだろ」


「褒め言葉として受け取っておくわ。だけど次の立ち幅跳びはそんなに得意じゃないし、多分満点取れないと思うぞ」


「そんなこと言いながら超えちゃうんだろ?」


「やれるだけやるさ」


 立ち幅跳びをお互い測り合う。


 俺は1回目232cm、2回目238cmだった。

この体格にしては頑張ったと思う。

 龍樹が1回目を飛んだ。249cmだった。満点は265cm以上のためちょっときつそうだ。

 そして2回目、258cm。かなり伸ばしてきたが、残念ながら9点。


「惜しかったな。あと7cmだったのにな」


「仕方ないさ。来年もあるから、次は満点目指して頑張るわ」


 こうして1日目の新体力テストは終わった。

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