第7話 紅白戦

 入学してからの1週間は、あっという間に過ぎ週末になった。

 そして今日は紅白戦が行われる。4チームに分かれて2試合をする予定だ。1チーム17人くらいになり投手や控えでも全員出場できる。こういう数少ないチャンスをものに出来なくては、1年生でベンチ入りを果たすことはできないだろう。

 俺は2試合目の赤チームで出場することになった。同じチームには佐久間兄弟の兄、秀介がいた。ショートを守っている。


「同じチームに知ってる奴がいて良かったわ」


「そうだね。アップとかしっかりやっておこう。あとでキャッチボールしようよ」


 1試合目を観戦し、途中からは自分たちの準備に取り掛かる。

 こっちの試合では主力メンバーに期待のメンバーを加えて試合をしている。俺はブランクがあるから選ばれないのは仕方ないとは思うが、秀介がこっちにいるのは驚いた。ショートはキャプテンの桜田先輩や他にも良い選手がいるため競争も激しくて仕方ないと思うが、ショートの中で1番守備が上手いのは秀介だと思っている。


 1試合目は赤チームで先発をした3年生エースの赤座先輩が、5回を投げて4安打無失点のピッチングでかなり調子が良さそうだった。そのあと2年生ピッチャーの山口先輩が継投したが6失点と結果が冴えなかった。


 白チームで先発した2年生の白田先輩は5回2失点とこちらはまずまずの結果で、そのあとに継投した龍樹はパーフェクトピッチングをしていた。シニア時代は怪我を避けるためにシンカーを投げていなかったが、高校では解禁していて魔球と化していた。143kmのストレート、カーブ、チェンジアップにシンカーも加わって的を絞るのも大変である。

 野手ではショートでキャプテンの桜田先輩がフル出場で5打数5安打と絶好調である。

 士郎は2打数無安打とアピールできていなかった。

 佐久間兄弟の弟、優介はセカンドでファインプレー2つと2打数1安打でそれなりに目立っていた。

 試合は6-2で白チームが勝った。


 1試合目を終えたメンバーでグラウンド整備をしている。


「そろそろ始まるな」


「準備はしてきたから後は結果を残すだけだね」


「そうだな。後はアピールするだけだな」


 俺も秀介もベンチで声を出している。1年生は基本的にベンチスタートなのである。応援しているうちに5回が終わった。3-2で白チームがリードしている。

 そして俺たちの出番がやってきた。今日は大事な場面でない限り一人一人の判断でプレーが任されている。

 守備からの出場で、次の回は先頭バッターで打順が回ってくる。ピッチャーはどちらも1年生の渡貫と中川に交代している。


 この回は三振と内野ゴロ2つで打球は飛んでこなかった。


 そして6回の裏に初打席を迎えた。俺のセールスポイントは走ることだから、まずは出塁することを考える。前身守備の頭を越える打球しか打てないのは、知り合いが相手にいないからまだバレてはいないだろう。

 ピッチャーは中川なので、ストレートと制球難のカーブしかない。狙い球はストレートに絞って良さそうだ。

セカンドが2塁ベース寄りでショート、サードは浅めだ。ポジショニング的に三遊間深めのゴロを狙うか。


 1球目はアウトローへのストレートが外れてボール。


 2球目もアウトローに大きく外れてボール。

 初マウンドの緊張で制球を崩してるみたいだから次も様子見だな。


 3球目も外に大きく外れてボール。


 4球目は真ん中へのストレートを見逃してストライク。

 次は甘くきたら打つぞと気持ちを高めた。


 5球目も真ん中やや外寄りのストレート。これを狙い通り三遊間へ転がした。ショートが逆シングルで捕球したが、投げられず内野安打となった。

 なんとか出塁できたことにホッとしたが、ここからが1番のアピールポイントであるためすぐに気持ちを切り替えた。

 足を警戒されて3回牽制された。しっかりと帰塁し、癖を見抜くことを怠らない。


 中川は牽制したことで力みが取れて、初球はアウトローにしっかりと決まった。

 また1球牽制されてから、次はカーブで空振り。

 牽制の時に足が若干狭くなってるな。次に仕掛けるか。

 1球牽制されてからの3球目で中川の投球と同時にスタートをした。完璧なタイミングでスタートを切ったためキャッチャーは投げられなかった。アウトローへのストレートの判定はボール。


 ここまでは想定通りであり、ここからがアピールポイントになる。あまり大きくないリードを取り、すぐさま次の球で三塁への盗塁を狙う。ここは中川も三振が欲しいはずだし、カーブ一択だろう。それに三盗を狙っているのを悟られないようにしないとな。


 予想通りのカーブを投げた。バッターの鈴木は空振り三振した。

 今回はモーションに入った時にはスタートを決めていた。キャッチャーが投げる時には既にスライディングをしていて、余裕のセーフである。本当ならここでホームスチールを決めてアピールをしたいが、リスクを考えるとやるべきではないと思った。ベンチを見るとスクイズのサインが出た。

 初球スクイズは警戒しているかもと思っていたら、大きく外されてバットに当てることが出来なかった。ただ大きく外していたためホームスチールのような形となりギリギリのタッチプレーになった。


「セーフ」


 準備はしていたが、思いがけない形でのアピールとなった。なんとかアピールできてホッとした。ベンチへ向かうと盛り上がりは最高潮であった。


「ナイスラン!」

 

「足速すぎだぞ」

 

「良いアピールできたな!」


 みんなから祝福された。監督もニッコリ微笑んでいた。


「グッジョブ!俺も負けないからね。なんか走一郎を見てたら俄然やる気が出てきたわ」


「秀介もこの勢いに乗っちゃえよな笑」

 

 秀介と少し会話しているとこの回は終わっていた。


 同点に追いついてからは、お互い2点ずつ追加している。そして8回の裏ノーアウトで打席が回ってきた。

 中川もアバウトだが内外への投げ分けとストレートの勢いでかなり差し込んだり、カーブでタイミングを外してうまく投げている。

 ポジションは定位置であったため、センター返しを意識して打とうと考えた。狙い球はカーブに絞った。変化球も打てるアピールをしたいし。


 1球目はインハイへのストレートが僅かに外れてボール。


 2球目は少し甘めなアウトコースへのストレートでストライク。

 この配球パターンだと次にカーブが来ると思う。突っ込みすぎないように叩きつけるイメージで打とう。


3球目はカーブ。

 俺の肩の高さに目掛けて飛んできたボールは曲がり、インコースのストライクゾーンへ入ってきた。その球をうまく肘をたたんでセンター方向へ打ち返した。セカンドが飛びつくもギリギリ届かずセンター前ヒットとなった。

 狙い球を打つことができて安堵した。ただ出塁してからが見せ場だと気持ちを切り替える。

 牽制を何度かされたが、初球で二盗を成功させた。さっきよりクイックが速くなっていた。かなり警戒されているため、三塁を狙うのはやめた。流石に警戒されてたら盗塁を決めるの難しい。すると鈴木が4球目のカーブを一二塁間を破るあたりでホームへ生還し、勝ち越し点となった。

 その後、四球とヒットで満塁となったが、ホームゲッツーと内野フライで中川が踏ん張った。

 9回の表は渡貫がピンチを背負うも無失点に抑えて赤チームの勝利となった。


「おつかれ。お互い良いアピールができたな」


「守備ではかなり目立てたけど、1安打じゃ打撃の方は普通の評価だと思うよ」


 グラウンド整備をしながら秀介と試合のことを話した。


「今日はこれで終わりとする。明日からはAチームとBチームに分けて練習する。チーム発表は明日行う。Bチームになったとしてもまだまだ入れ替えのチャンスはあるから選手権大会のメンバー発表までは諦めないように」


 監督が締めて、今日の紅白戦は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る