Episode1-7「そうして死体は発見された」
午前9時30分。漆原東彦の自宅へやってきた。閑静な住宅街にある、いたって普通の邸宅であった。
「ここが漆原さんのご自宅ですかー。敏腕プロデューサーっていうから、大豪邸かと思いましたが……」
「ははは。彼は別の場所に別宅を持ってるんだけど、そこは結構なお屋敷だよ。まあ、客人を招いてパーティーとかする時に使うそうだけどね」
社長は、漆原の自宅のインターホンを押す。家から誰かが応答する気配はなかった。
「ご家族もいないんでしょうか?」
「いや、彼は独身だしご両親ももう亡くなっているから、ここは彼一人しかいないよ」
社長はそう言いながら扉を引く。当然、開くことはなかった。
「鍵は掛かってるか」
「あのー、入れ違いになったとかはないんですか?」
陽真理が少し不安そうに訊く。
「もしそうなったらのために、あの若い局員に入違っていたら連絡をくれるようには頼んであるよ。まだ来てないから……、到着していないか、別の場所にいるのかなぁ」
「別の場所、というと、さっき言ってた別宅とかですか」
「うん。ほかに心当たりがあるとすればその別宅だね。彼がそっちに泊まるってことは滅多にないんだが……」
「滅多に、ということは、稀に泊まることもあるんですね?」
「そういうときもあるね。いったんその別宅の方にも行ってみようか。さつきくん、場所を教えるから、そこへ向かってもらってもいいかな?」
「え、あ、はい。わ、わかりました」
4人は車に戻って、今度は漆原東彦の別宅へ向かった。社長の説明を受けながら、朝日奈さつきはそつなく運転して目的地へ向かった。到着したのは、9時45分ごろである。
「ここがその別宅だよ」
案内された別荘は、なかなかに大きなお屋敷だった。豪華絢爛、というわけではないが、周りの慎ましやかな住宅と比べれば、ひときわ目立つ洋風の外装だ。
社長が、別宅の門に備え付けられたインターホンを押す。しかし、誰かが応答する気配はまるでなかった。
「ここもはずれかぁ?」
「あの若い局員さんからも、連絡ないんですか?」
「んーきていないねぇ」
社長はそう言いながらスマホを開く。彼のスマホにはなにも通知は来ておらず、現状は入れ違いになっていないことが伺えた。
突然、ギィと門が開く音がした。照喜名安奈が勝手に門を開けていたのだ。
「あ、ちょっと杏奈くん!?」
「ほへー、こういう門初めて見ましたけど、普通に開くんですねー。鍵とかないのかな」
「鍵はあるんじゃない? ほら、南京錠みたいなの入れる場所があるよ」
そう言いながら陽真理が指をさす。いわゆるかんぬき錠になっており、スライドしてロックした後に南京錠でカギを占めることで、しっかりと戸締りができるようになっていた。それが、今は南京錠も外されていて、開閉は自由にできるようになっている。
「……漆原はいくら何でも戸締りを忘れるほど不用心じゃないと思うんだけどな」
「もしかしたら中で意識を失って、倒れてるかもしれませんよ」
「えっ」
「ここはみんなで中に入って、安否確認しにいきませんか!?」
杏奈の突然の提案に一旦は戸惑ったものの、首を横に振る理由もなかったので社長はその提案を受け入れた。
「ねっ! 陽真理ちゃんも一緒に探しましょう!」
「わっ、う、うん!」
「良いですよね、朝日奈さん」
「えっ。私?」
「はい!」
杏奈に促されるがまま、4人で漆原の別宅へと入っていった。
玄関を開けると広いエントランスがまず4人を出迎え、2階へと続く階段は真正面にあり、右にも左にも奥にも部屋があるといった、豪奢な作りになっていた。さながら小さな異人館のようで、不思議な感覚を覚える。
「うひゃぁ、すっごい広い……」
あまりの広さに、杏奈が呆然とする。
「……それじゃあ、私は2階奥の書斎を見てきます」
朝日奈さつきは誰よりも先にそう宣言すると、そそくさと階段を上がっていった。
「ほえ?」
「それじゃあ私は右側から見るとしよう」
「あ、それじゃあ陽真理ちゃん、私たちは二人で左側の部屋から見ましょうか」
「う、うん」
杏奈は陽真理とともに、エントランスから見て左手にある扉を開ける。部屋かと思いきや通路になっており、右手側の壁にいくつか扉がある。反対の左手側の壁と一番奥は窓があり、庭に生えた木を通して木漏れ日が廊下を照らしていた。
「へ、部屋につながってると思ってた……。どんだけ広いんだこの別宅……」
「社長さんが、ここでパーティーを開くことがあるって言ってたから、お泊り用の部屋とかもあるんじゃないかな?」
「それにしたって一介のテレビプロデューサーが持つ屋敷とは思えないけどねえ……」
杏奈を先頭に、手前の扉から開けていく。最初の部屋は「GALLERYROOM」という札が掛けられており、開けてみると、様々な書籍や写真、腕時計や宝石類などが多く飾られていた。
「わ、わぁぁ……すごい……!」
と、陽真理が目を輝かせる。
「なるほど『GALLERYROOM』とはそういうことですか。漆原プロデューサーがこれまで手掛けた番組の資料だったり、個人で集めている
「この部屋は問題なさそうだね」
「ですね。次の部屋に行きましょう!」
次の部屋は「BEDROOM」と書かれた札が掛けられていて、見るからに寝室だということが分かる。
「まさかまだ寝てたりしてね」
そう言いながら「BEDROOM」の扉を開く。
二人の目には、大の男が使うには大きすぎる、赤くて立派なベッド……よりも、床にうつ伏せになり、血を流して倒れている男が強烈に映り込んだ。
「ッッッ!!!?」
声にならない声で、推名陽真理が叫ぶ。
杏奈は咄嗟に扉を閉め、
「社長! 社長!!」
と大声で社長を呼んだ。
ただ事ではないとすぐに察したのか、駆け足で社長がやってきた。遅れて朝日奈さつきも3人に合流する。
「どうかしたのかい!?」
「この部屋の中で……男の人が血を流して倒れてるんです!」
「何!?」
社長が扉を開ける。突っ伏したその男に、社長は当然見覚えがあった。
「漆原さん……!」
社長が男に駆け寄り、肩をゆすって声をかけ始めた。しかし、男から返事が返ってくることはない。
「死んでる……のか!? えっと、こういうときは……さ、さつきくん! 救急車と警察を両方! 私は局の人に連絡を入れるから……」
「わ、わかりました!」
そうして通報がされたのが9時50分頃。10時前には警察と救急が到着し……。
◆
「とまあ、漆原さんを発見したのはそんな感じで現在に至る、というわけです!」
照喜名杏奈は自信満々に答えた。
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