『新生ムサシ会』

第14話 手垢

 私の人生は産まれた時から絵に描いたように順風満帆でした。


 母は一流企業の社長、父はヒモでしたが優しい人でした。


 母は私に会社を継いで欲しかったので、教育に関して少し厳しくはありました。


 ですが、私は母を尊敬してたので一生懸命期待に添えるよう頑張ってきました。


 第一志望の高校に受かることができたのも母のおかげだと思っています。



 母には感謝してました。



 そんな生活が狂い出した時期は明確で、母の会社が倒産した時でした。高校二年生に上がる直前でした。


 父はいつの間にか行方が掴めなくなっていました。


 母は夜けて家に帰ってきては、いつも違う男を部屋に連れ込みます。


 毎晩、母の部屋から聞こえる変な音で目が覚めます。


 母が最終的に行き着いた男はやはりヒモで、母はその男との再婚を望んでいるそうです。


 その男は賭け事で負けてくると私を殴ります。


 母は見て見ぬ振りというか、気に留める事はありません。


 母は再婚に邪魔な私を早く家から追い出したいそうです。


 元々、母は男の子を望んでいたそうです。勉強を頑張ったのだって母に認めて欲しかったからです。


 家に私の居場所はありません。


 学校では来年度からの学費が払われないので、私を気にかける先生は居ません。


 学校柄、交友関係は打算的で元社長の娘が相手にされる事は無くなりました。





「もう お金ないや……」


 独り少女は制服を纏って、橋の真ん中で川を見下ろす。


「死ねる……かな……」


 生きたい訳じゃない、でもだからって死ぬ覚悟がある訳じゃない。


 月を写した川の水面は凪いで。


「……意気地なし……」



  † † †



 彼女は橋の下いた。男数名に囲われ、いやらしい手つきで身体を触ってくる。


「……」


(…… 私 奪われちゃうのかな……)


 気持ちの悪い吐息が彼女を覆い尽くした。


 少しベタついた手垢混じりの手が何度も彼女の肌に触れる。




(恋……したかった……)




✴︎後書き

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