第1章 パステルカラーの「来訪者」(西京市在住:赤井聡)
そもそもその隕石は空中に突如現れたものであるので、正確には隕石ではない。
どこから来たかも分からない物であるが、少なくともミサイルの様なそのもの自体に推進装置が見られない事や、世間への影響を考慮し『未確認飛翔体』の呼称は避けれ、『未確認落下物』と報道されていた。
未確認落下物は前述のように東京都西京市に落下したのだが、落下したところは個人の所有する庭であった。
その個人「赤井昇」氏は代々広大な土地を所有している家系の人物であり、その庭も個人が持つにはかなり広大な面積であった。
今回の落下が発生した時期、赤井氏は海外赴任のため夫婦ともに不在であったが、一人息子の聡氏のみが在宅であった。
我々は現地調査を始めるとともに彼に事情を聞くことにした。
彼はある企業にイラストレーターとして務めており、その職業柄ゆえ以前から自宅で仕事をしていた。
そのため、今回の件について彼は終始当事者として関わることになるのであるが、今回の記録は、落下直後のインタビューである。
最初は何が起きたか分からなかったです。 空が突然に光ったと思ったら、震度5は有るんじゃないかという衝撃ありましたからね。飛行機でも落ちてきたのかと思いましたよ。
―イラストレーターと言う職業から想像していた、話しづらさのない快活な話し方で彼は話をしてくれた。
でも隕石の落下だと、庭がめちゃくちゃになっても保険って降りないですよね? ああ、これは先生方に聞いてもわからないか……。
ともかく、見ての通り落下の影響で庭はめちゃくちゃ。父と母が趣味でやっているガーデニングも一瞬にしてパァって訳ですよ。(顔の横で手を広げてこちらに見せるジェスチャー)
ただ、そうですね。
ちょっと気にかかることが有るんですよ。
隕石が落ちてきた時なんですが、隕石って普通、白っぽく光ってますよね?
それが摩擦か断熱圧縮かなんてのは俺にはよくわからないですけど。
でも昨日の隕石ですが、光り方が不自然で七色……いや強いていうなら平面的なパステルカラーの様なともかく様々な色で光っていたんですよ。
―彼は自分が言っていることを信用されないかと警戒していたが、その隕石は彼の言うように複数の色の光を発していた事は複数の監視カメラの記録に納められている。
ああ、他にも同じ報告があるんですか? それはよかった。
ともかくその時、俺も何が起きたか知りたくて庭に飛び出したんですよ。
そうしたら芝生や木々は焼け焦げ、落下付近は土がめくれ上がってる。
ただその光景を見て、俺は飛行機の墜落ではないなと思いました。
さすがに飛行機が墜落しても、その残骸が見えないなんてありえないですからね。
ともかく俺は落下地点を確かめる為、飛び散った土やら鉢や板の破片を避けながら庭を進んだんですよ。
そうしたら庭のほぼ真ん中に隕石を見つけました。
隕石と言えばって感じに全体を大小無数の凸凹で覆われた概ね球形の物体だったので、ああこれかって感じでした。
ちょっとベタ過ぎて本当にこれ隕石かって疑問もありましたが、それ以外に説得力のあるモノは思いつかなかったんで、とりあえずそれは隕石のようなものと自分を納得させて、すぐに手に握っていたスマホで写真を撮った上で消防署へ連絡しました。
―我々がここに来た時、隕石は二つに割れていたため、触れたりしていないか確認する。
とんでもない。
物理学などは詳しくないですが、未知の物体ですよ。
病原菌がついていることはなくても、放射線を発している可能性もありますからね。
連絡した後は、家の戸締まりをしっかりして庭から最も遠い部屋で消防車が来るのを待ってましたよ。
以降は消防署員から得た証言とほぼ同じであり、むしろそちらの記録を参照していただきたい。
ただ、その未確認落下物を簡易測定いた限りでは有害な放射線は検出されておらず、落下から一時間程度しか経過していないにも関わらず高熱を発していなかった。
まるで以前からそこにあったかのように外気温とたいして変わらない温度であった。
そして前述の様に我々が到着した時には二つに割れており、サンプル回収のためにクレーンで持ち上げると自重で崩れるように崩壊していき、結局我々はごく少量のサンプルを手に入れることしかできなかった。
以上のように未確認落下物が崩壊してしまった為、正確な情報が得られない。
気象庁はこのことから、落下物は隕石として公表することにした。
※付記
落下物を隕石としたのは、防空監視衛星導入を検討していた防衛省や外務省の圧力があったとの話もある。
実際にその後、隕石などの宇宙からの落下物の監視強化を名目に科学衛星が数機打ち上げられているが、その辺りの因果関係は不明である。
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