第二章

第22話 

 この日、世界に激震が走った。

 東京に出現したあらゆるダンジョンの本であるA-1の9層ボスが討伐されたのだ。

 長らく、と言っても3年近くそれを打ち破った者は現れなかった。

 S級冒険者ですらそれに敵わなかったのだ。

 ところがその日をもってして9層のボスは打ち破られた。

 最初、ダンジョンのありとあらゆる予算や政策等を司る日本国政府迷宮省内においてはそのニュースを懐疑的に見るものが多かった。

 だが国営ギルドの長官に任命されている尾間那月の報告により直ちにそれは真実であると認識されたのである。





 喜四衛キシマモル迷宮大臣はその報告を聞いて驚きの表情を浮かべた。

 

「ほう、まさか本当にあの魔物を打ち破る冒険者が出るとはな」


 A-1の9層ボスは、長らく打ち破られなかった。

 分類上はS級と言う事にはなっていたが、実際はS級を超えた超S級ほどの実力であると推測されていた。

 研究報告によれば魔石を二つ持つという過去事例のない魔物であり、そして魔力操作リソースが通常の生物の二倍あるとの事。

 当然生物としてのポテンシャルが人間よりも大幅に上回っているそれに勝てる冒険者も長らく現れなかったのである。


 そもそも、8層攻略時点でも異常であったのだ。

 魔石は一つではあったがそれの持つ魔法は人類にはどうこう出来る類の物ではなかった。迷宮が日本に出現してから15年が経過したが、人類の魔法技術は未だ未発達である。

 魔力とは何か?魔法とはどの様な原理で引き起こされるか?そんな事すら未だに解明されていないのが現状である。

 

 だが、人類とて馬鹿ではない。

 雨の原理を知る前からそれを貯蓄し利用したように、

 はたまた地球の広さをその目で見る前から正確な大きさを割り出したように、

 人類は原因不明の事象を原因不明のブラックボックスとし、それを利用する事ができるのだ。

 だからこそ冒険者は杖を使用し魔法を使用できるのだ。

 

 しかしながら原因不明の物はあくまでも原因不明。

 だからこそ、人類の魔法技術はそれの発見により飛躍的に向上すると謳われてはいるが、現状は魔物にも劣る程度の技術しか利用されていない。


 故に人々の間では8層ボスは人類の技術では攻略できないと囁かれていたのである。

 ──幅舞岬が攻略するまでは。


 彼女は初期から活動していた冒険者ではあったが、実力よりもねむれむというその知名度の方で知られていた。

 だが、彼女は8層ボスを攻略したのだ。 

 あまりもの衝撃に当時の世間はそのニュースに沸き立ったものだ。

 なにせ人類にはまだ手が届かないと言われていた8層ボスを攻略したのだ。

 人々が湧き立つのも訳ない。


 とまあ、そんな過去の話であったが、今回持ち込まれた話は幅舞岬のボス攻略を超える9層ボス攻略との事。

 あまりもの衝撃にそれを信じない官僚が出るのも仕方がないと言えば仕方がない。 

 かく言う迷宮大臣も最初聞いた時には懐疑的であったのだ。


「──それはこれから大変になるな」


 その知らせを聞いた喜四護迷宮大臣はそんな感想を抱く。

 当たり前だ。

 何故ならばA-1とは資源の宝庫。

 魔石に魔鉱、さらには魔物の素材。ありとあらゆる国家が喉から手が出るほど欲しがるそれが眠っているのだ。

 そんなダンジョンのボスが討伐された今、ダンジョンの新階層の資源採集が本格的に検討されるのは必至である。

 なにせそこには推定50兆円にも上る富が眠っているのだから。

 

 だからこそ、である。

 彼の権力を固めるためにここからの動きが大切なのだ。


「争いに備えねば、な」


 A-1のダンジョンのみ何故かボスと門番が復活しない様になっている。

 故にこの階層の門番まで攻略された以上、その富を巡る争いが起こるのは必至だ。


 そのため、喜四護迷宮大臣もその争いに備えなければならない。

 

「さて、それに当たり主要な敵を見定める前にやるべき事をやらねば」


 やるべきこと、それは一つ。


「9層ボスを討伐した者の名は、確か陰見理音と言ったか?」


「はい、国営ギルド東京支部にて勤務するギルド嬢です」


 秘書が答える。


「ふむん、ギルド嬢であったか。これまた意外な仕事に就いている物だ。では、我々の陣営に引き込もうか。彼女はどこに居る?」


「はい、現在都内の病院にて安静にしているとの事です」


「なるほど、今すぐそちらに向かおうか。誰かに盗られる前にな──」


 そう言って男は笑った。


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 今回、主人公の出番はありませんでした。

 次回は主人公回にするかと_(┐「ε:)_

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