第6話

 4階層の大ボス部屋にて、私は巨大な鎧を纏った何かと対峙する。

 

「ギ、ギギガ・・・・・・」


 不快なサビ音を響かせながらこちらに振り向くはD-18の主である機動鎧ガーゴイル

 通常のガーゴイルが鎧を纏うことで防御性能を手に入れたって感じのボスだ。


 その鎧の下には彫刻の肌が見え隠れする。

 なんか、不気味な見た目をしているってのもあるし個人的な理由で私は好きじゃない。

 まあ、一部の物好きは好きだったりするらしい。

 

 ただ、相手は所詮魔物だ。

 殺すか殺されるか。

 対峙したという時点でその関係に落ち着く。

 そして、今回の場合においてはRTAという相手をいかに早く殺すかという競技であるため、一方的な攻撃の対象だ。

 故に怖がる必要は無し。


 落ち着いていつも通り戦えば良い。

 深呼吸。


 すう、と鼻から空気を吸って口から吐き出す。

 魔力により文字通り熱く燃やされた脳と思考は今一度冷却され、落ち着く。

 僅か0.02秒にも満たぬ時間で覚悟を決める。


「・・・・・・行きます」


 戦いは先手が有利とは言ったもので、実際にそうだ。

 主導権を握った方が戦いの勝敗を決められるからだ。

 勝てる、という訳ではないが、勝敗の決定権を決めれるという時点で相当な優位性を確立できる。

 なんて偉い人が言ってたけど要は、攻めている間は様々な攻撃ができて選択肢が広がるって事なんだろう。

 まあ、よく分からんが。

 

 てな訳で脚を上げ、地面に打ちつける。


 ミシリ


 低い、重低音のような音が響きダンジョンの床に亀裂が走る。

 先ほどのように完全に砕け散る訳ではないが、細かな破片が空中に舞い、砂埃の様になる。

 

 そして、砂埃の中を駆け抜け懐まで一気に詰める。


「むん!」


 巨槌を下から逆袈裟斬りの様に振り上げた。

 

 ガイイイイン!!!


 機動鎧ガーゴイルはその手に持つ剣を構え受け流そうとしたが──


「──それは悪手」


 受け流すとはすなわち直撃を免れるために最小の力で別の歩行へ力のベクトルをずらす事を指す。

 しかし、受け流すのに必要な最小の力が、発揮できる最大の力を上回っていた場合どうなるか?

 その答えは簡単である。


 剣が折れるのだ。

 

 キン、と折れた刃先が吹っ飛び地面に刺さった。

 さらに刃先が折れただけでなく衝撃により機動鎧ガーゴイルの右腕も粉々に粉砕した。

 

 本来ならば大質量の巨槌攻撃は受け流すのではなく避けるべき。

 当たらなければどうという事はないからね。

 でも、今回の場合は別だ。

 初手で床を踏み土埃を生成し敵の視界を奪った。

 本来ならば傷一つ入らないダンジョンの床だが、今回は本気を出させてもらった。


 そして、敵は視界を奪われたことで攻撃を回避することが困難になった。

 当然敵もさっきの攻撃を受け流しては不味いと気付いていただろう。

 だが、それに気づいても戦いは私が主導権を握っているが故に対処が遅れた。

 まあ私がダンジョンをぶち壊してボス部屋に侵入したせいで不意を突かれたってのもあるだろうが。

 なにはともあれ私の勝ちである。


 尻餅を付く魔物を見下ろし、手刀でその胸を貫く。

 魔物における心臓である魔石を抜き出し、機動鎧ガーゴイルは絶命した。


 サラサラと灰になる様を見つつ、ニタリと笑い宣言する。


「タイムは、9分54秒631・・・・・・世界記録です」


:おおおおおおおおお!!!

:マジか!?

:本当にやりやがった

:世界記録だ!

:俺は歴史を見たのか?

:凄すぎる

:有言実行するなんてw

:最後のヤバくなかった?早すぎて何も見えんかった


「やりましたよ、私!」


:ヤバいヤバい

:拡散はよ

:本当にやるなんて・・・・・・

:神の誕生を目にしている

:いや、草通り越して森通り越して尊敬

:前世界記録の半分までタイム縮めとるんやが


 自分が世界一位になった事を噛み締めつつ、落ち着き話し始める。


「では、完走した感想ですが・・・・・・うん、新ルートの開拓は我ながら凄いと思う。本当に、やったって感じ」


:本当に凄いよ

:これは凄い新人を見つけてしまった?

:ヤバすぎィ


「てか、あー、ヤバい。明日仕事あるんでもうそろそろ帰らんと。本当に眠い」


:なお現在時刻はすでに0時を過ぎている模様

:話変わったなw

:主って働いてんの?

:今のは聞き間違いですかね?

:こんな人外が働ける職場なんてあるのか

:こいつを飼う職場があるという事実が一番怖い

:ダンジョンで食っていけそうな実力してんのに働いてんの草


 はあ?

 視聴者たちは私が働かないどこぞのニートかなんかと思ってらっしゃるのだろうか?別にニートが悪いだとかは思わないがこれでも一応毎日コツコツ働いているんだが。

 あー、ないわー。


「失礼ですね。私はちゃんと社会的信頼のある職場で働いていますとも」


:社会的信頼w

:何を言っているんだ?

:そうかそうか、君はそういう奴だったんだな

:なんで主は仮面なんて被ってんの?


 仮面?

 あー、そう言えば私、仮面被って配信してたな。

 副業バレしたくない、っていう理由と顔出しはしたくないからって理由で被っていたな。

 邪魔で邪魔でしょうがなかったけど。


「実は私、勤めている先が副業禁止なんですよ。なのでバレたくないって理由で付けてますね、はい」


:主の仮面を付ける理由が副業バレしたくないってw

:副業で既に十分食っていけそうなんやが

:うーん、人外の考えることは分からんなんだ

:こんな化け物でもそんな事考えるのなんかオモロい

:顔出しの予定とかってあるのかな?

:草


「顔出しの予定ですか・・・・・・今のところはない──」


 そこまで言いかけた時、一つ思いついてしまった。 

 こういうのはファンサービスが重要なのではないだろうか?

 直ぐに断ってしまうと視聴者はたぶんガッカリしてしまう。

 ならば断らず、無理な条件を出して希望を持たせた方が喜んでもらえるだろう。

 うん、きっとそうだ。

 やっぱり配信業で儲けようってなら多少のファンサービスも必要だろう。

 なんて考えが脳裏を過り、訂正する。


「──いや、もしも、仮に一週間でフォロワーが10万人を超えたら顔出ししてあげますよ。まあ、絶対にそんな事ないでしょうが」


:言ったからな?

:誓約したね

:久々に本気を出すとするか

:祭りの時間だあ!

:顔出し宣言キタコレ!


 あれ? 

 もしかして私ヤバいこと言っちゃった?



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