第5話

「はい!という訳で3層に到達しました!」


 1層2層のボスはそこそこ早く倒せたためタイムは順調だ。

 このままいけば世界一位が獲れる。

 しかしながら、本当に大変なのはここからだ。


「この層はなかなか厄介でして、ご覧の通り毒沼が広がっています。ちなみに実体験だけど触れると肉が蒸発します」


:ヒエッ

:実体験?

:肉が蒸発って

:普通にヤバいじゃん

:大丈夫なん?


 ダンジョンRTAにおいて、罠よりも魔物よりも厄介なのは、環境である。

 何故ならば、罠のように一時的にデバフを背負う訳でもなく、魔物のように一時的に戦闘に持ち込まれる訳でもないから。

 それは、常に冒険者に負担を強いてくる。

 今回の毒沼だったら、広域に広がっておりルートの選択を狭めてくる。

 だからRTAにおいては一番厄介な要素だったりするのだ。


「・・・・・・でも大丈夫、ちゃんと対策は考えてきましたから」


:草

:全く信用ならんw

:主の考えてきた、はマジで信じちゃダメなんよなw

:おじいちゃん、本当に大丈夫?


「むう、そんなに信用ならないってなら見ててください」


 沼に近づき巨槌を大きく振りかぶり、満身の力を込めて沼とは反対方向に向かって叩き付ける。

 すると、作用反作用の法則に従いこちら側に地面にぶつけた力と同等の力が加わる。

 

 そのまま加わった力により吹っ飛ばされ、空を飛ぶ。

 これで毒沼を大幅ショートカット。


:はあ?

:物理法則はどうした

:教えはどうなってんだ、教えはw

:どうやってんの?

:いや、笑えねえw

:義務教育の敗北(物理)


 ふふふ、視聴者の皆んなはこのトリックが分からないようだ。

 良い気分だぁ。

 仕方がないから教えてやろう。


「皆さん、魔力って質量がないんですよ、つまり・・・・・・」


:?

:質量はないと

:つまり?


「こうやって質量+魔力の力を地面にぶっつけると魔力分の力が反作用としてこちらに加わります。まあ、ロケットとかと同じ感じの原理かと」


:なるほど、分からん

:ロケットと同じね

:だとしても意味わからん

:理論としては合ってるけど実行するのは理解できん

:確かにこの人は信用しちゃだめだったw

:ドヤ顔やめてくれwww


 コメ欄が若干燃えつつ、巨槌でぶっ飛びつつ一直線でボス部屋を目指すと僅か数分ほどで到着した。


「さて、ボス部屋到着です」


:はやy

:攻略早すぎてダンジョンに失礼

:え、もう?


「ですが、今回は無視します」


:無視?

:なんで?

:嫌な予感が・・・・・・


「皆さん、このダンジョンの構造って知っていますか?」


 このダンジョンには三種類の魔物が居る。

 道中に蔓延る雑魚。

 各層に居座る中ボス。

 そして、最終層に待ち構える大ボスだ。


 そして、このダンジョンの構造だが、大まかに分けて毒沼や罠などがある迷宮ゾーンとボス部屋ゾーンがある。

 で、ボス部屋ゾーンなのだが実はさらに二種類ある。

 勘のいい人間なら気づくだろうが、中ボスの部屋と大ボスの部屋である。

 中ボスの部屋は今まで見てきた通り円柱型の大部屋で中心にボスが居座っている。


 ここからが重要なのだが、大ボスの部屋は中ボスとかの部屋と構造が違う。

 中ボスの部屋が円柱型だったのに対して大ボスの部屋はドーム型になっているのだ。

 なぜそうなっているのか、なんて詳しい理由は知らないがそうなっている。

 まあ、多分大ボスが収まるためにはドーム型くらい縦にも横にも大きくなければならないって感じじゃないだろうか?


 とまあ、そんな事はさておき、大ボスの部屋はドーム状となっているのだ。

 ここから私は一つ考えた。

 それは──


 なんて事を視聴者に話す。


「では、行きますよ」


 巨槌を先ほどと同じように振り上げる。


「身体強化『万力』発動!」


 先ほどとまで掛けていた『疾走』を解き、『万力』を掛ける。

 こちらは、速度を強化するバフではなく、力を強化するバフだ。

 何層にも重ねがけし、現状自身の限界まで力を強化する。

 

 そして、脚を引き、深呼吸。

 

 これが決まれば大幅な時間短縮になる。


 集中──


「シッ!」


 一閃。

 振り下ろした巨槌は大質量を持って床を砕く。


 ガアアン!


 床に亀裂が広がる。

 

 通常、ダンジョンの破壊は現実的でないと言われている。

 ダンジョンを形成する材質は魔力により強化されており、いかなる攻撃や衝撃を通さない。

 さらに階層と階層を隔てる床は推定20メートル以上の厚さを持つと言われており、その破壊は事実上不可能なのだ。

 ただ、それでも今回の場合は大ボス部屋のドーム構造により、上層の一部の床が薄くなっている。

 おおよそだが20メートルの分厚さが5メートル程までに薄くなっている。 

 だが元々の材質の硬さにより、それでもなお破壊は困難であるが故に多くの冒険者にとって考慮する内容ではない。


 しかしながら、私にとっては別だ。

 

 全魔力を持ってすればギリギリ破壊が可能になる。


「来た!」


 床が粉砕した。


 ダンジョンに階層を隔てる壁が崩壊したことを告げる音が響き、大きな穴が形成される。


「3層攻略完了、タイムは──順調。では、これより4層ボスの攻略を開始します!」


:なるほど、Any %ってこの時のために・・・・・・

:?????????

:前代未聞すぎる

:どうなってんだ主は

:ダンジョン破壊って、は?

:ヤバくね?

:階層攻略(物理)

:は?




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なんか間違えて2話で5層って表記してましたが、正しくは4層でした。

スマソm(_ _;)m

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