わたしの「色」

亜咲加奈

わたしの「色」

 なぜ私たちは「色」を強制されるのだろう。


 肌の手入れをしていないわたしに、同級生は「化粧水くらいはつけないの?」とあきれた。わたしは帰りに一番安い値段の化粧水を買って帰った。

 同級生はほとんど化粧をしていた。だからわたしも顔に色を塗った。鏡に映るわたしを見たわたしの胸に、暗い、気持ちの悪い煙がわいた。

 細心の注意を払って引いたアイラインは時間が経つほどに乾いてはがれ、気味悪がられた。


 わたしは素直というよりは、従順すぎたのだ。いや、自分について、あまりにも無知だったのだと思う。

 だから他人の勝手な言い分がわたしの中に入り込んだ。それを許してしまったのは、わたしだ。


「もっときれいな色の服を着れば?」と言われ、一度、花のような色のワンピースを買ったことがある。

 確かに、すれ違う人がわたしを振り返った。

 でもそのワンピースは、今は手元にない。長い期間着られる服ではなかった。


 その頃のわたしは、憧れて、勉強に勉強を重ねて、つき合っていた人とも遠距離恋愛をすることにして、ようやく希望する職業に就いたばかりだった。


 でも仕事はまったくうまくいかなかった。よかれと思ってしたことが裏目に出て、同僚も上司も助けてくれず、わたしは孤立した。


 おまけに、遠距離恋愛中の相手がいるにも関わらず、好きな人ができた。


 どうしていいかわからなかった。


 わたしから、顔にきれいな色を塗る気力も、きれいな色の服を着る気力も、失われていった。


 結果としてわたしは、遠距離恋愛中の相手と別れた。好きになった人にも、素直になれなかった。当然、好意を伝えることもできなかった。

 自分に素直になれていないのだ。どうして誰かに素直でいることができようか。


 ところが年数を重ねるごとに、仕事がうまく回るようになってきた。

 自分がいいと思うことを素直にできるようになった。

 わたしは化粧をやめた。

 着たいと思う色の服を着るようになった。


 わたしは、自分の「色」を見つけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしの「色」 亜咲加奈 @zhulushu0318

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ