20話 設立! ジタロー教団
魔法で宙に浮かび上がっている食料や酒、銀・銅の硬貨。それと生首。
両手いっぱいに獣人の生首を持っているニケ、ファル、三人の女性たち。三人の女性たちは、全員全裸だったのでアジトにあった盗品の服を着させている。
そして、それを引き連れ、先頭で歩いている俺。
絵面があまりにも最悪だった。
すれ違う町の人たちの視線を物凄く集めている気がする。
だが叫んだり、怯えたりする様子の人はいなかった。
生首が宙に浮いているのも、生首を持って歩く人もこの世界じゃあり得ない光景ではないのだろうか?
俺が逆の立場なら、パニックになって叫んでる自信があるぞ。
しかし、ニケ、ミュー、ファルと、助けた三人の女性たちも特に気にした様子はなさそうに平然としている。むしろ、誇らしげな顔すらしていた。
変な格好をして街を歩く頭のおかしいカルト宗教団体の一員になったようで、針の筵にされたような気分だった。
そんなこんなでギルドに到着する。
大した距離ではないのに、長いこと歩かされたような錯覚がある。
空を見上げると、日が沈み茜が差し掛かろうとしていた。
今日だけで朝からニケ達の装備を買い揃えて、ギルドに登録して、盗賊退治の依頼までこなしたから少し疲れてしまった。
貧弱な一般社会人なはずの俺が、これだけ動いてもへとへととまでいかないのはきっとアストレア様のご加護あってのものなのだろう。
アストレア様に内心で感謝を捧げながらギルドのドアを開ける。
「おい、てめぇら! ジタローさんのお帰りだぜぇ!」
暫く、ボコボコに殴られたような跡がある冒険者たちに見られたと思ったら、ドスの効いた声がギルド内に響いた。
「ジタローさん、お帰りなせぇ!」
「「「「「お帰りなせぇ!!!」」」」」
「その様子、依頼は無事に達成できたようですね! 流石です!」
冒険者たちが、帰還した俺たちの元へ駆け寄って来て深々と頭を下げて出迎える。その先頭にいたのは、ピンピンとしているセッカマだった。
「えっと……」
「俺様、ジタローさんに負けて……そのあと助けて貰って――。それで、俺様思ったんですよ! ジタロー様は、本物の聖人様だ! だから、舎弟として恩返しさせて貰おうって!」
どうしよう。セッカマの言ってることが全く理解できない。
「こいつらは俺様の子分です。ジタローさんの子分の俺様の子分はジタローさんの子分なので、俺様もコイツらもジタローさんの言うことでしたら何でも聞きますんで、何でも言ってくだせぇ! ケヒヒヒ」
冷静に考えて俺が切り落とした腕を俺が治したから感謝して恩返しってのもおかしいし、セッカマの胡散臭い笑い方含めて復讐の機会を虎視眈々と伺われてるようにしか思えない。
「え、えっと……とりあえず、依頼達成の報告したいんだけど」
「ああ、すいやせん! おいてめぇ、何ボサっとしてやがる! 早く受付嬢呼んで来やがれ!」
「ひぃ!」
セッカマに殴られた冒険者が、急いで受付の女性を呼びに行く。
ニコニコと満面の笑みを向けてくるセッカマからは害意や敵意は一切感じられなくて、むしろさっき助けた三人の女性と似たような雰囲気を感じた。
警戒することに越したことはないけど、盗賊団のアジトで見せられたニケたちの強さなら護衛的にも自衛的にも安心できるし、一先ず様子見。
「もう、依頼を達成されて帰って来られたんですね。ギルマスのところへ案内しますね」
「あ、はい」
受付さんについて行って、ギルマス室に入る。
ギルマスは相変わらず書類仕事をしていたが、書類の山はかなり片付いていた。
「もう、帰って来たのか。お前さんの依頼達成と俺の書類仕事。どっちが早ぇか競争してたんだけどなぁ」
ギルマスはスキンヘッドを撫でながら「負けちまったな」と、渋い声で笑う。
「それで、賊共の首と盗品はどうした?」
「持ってきましたよ」
「奴隷たちに持たせていました。今はロビーにいます」
ギルマスが確認するように受付を見ると、受付はもっと詳しく答えた。
「そうか。よしっ。なら、依頼達成だな。報酬の金貨5枚とCランクの冒険者証だ」
ギルマスは立ち上がり、5枚の金貨と一枚のカードを俺に手渡してくる。
カードには
名前 ジタロー
パーティ名 神聖アストレア教団
ランク C
と書かれていた。カードは丈夫そうな金属製で、紐を通せそうな穴も開いている。
「じゃあ、盗品の取り分を相談するか。……2割は少なく感じるかもしれねえが、ある程度は元の持ち主に返さねえといけねえし、こっちも取り分が欲しいから勘弁してくれや。あ、でも、盗賊の首に賞金が懸ってる奴があったらその取り分は全部ジタローのものだぜ」
「あ、そうなんですね」
ギルマスは歩いてロビーの方に向かいながら、俺に話す。
「そう言えば、盗品の取り分なんですけど俺たちのはなしで良いです」
「なし? ……何でだ?」
少し迷惑そうな顔をしているギルマスに、盗品は貰っても使い道ないから要らないですって正直に言って良いものか考えている間にロビーに着く。
「まあ、ジタロー様って欠損も治せるの!?」
「そうなんだよ。剣も超一流でな、俺様の手をスパァッてあっと言う間に切ってな。四肢欠損なんて治療してもらう伝手もなければ金もねぇから、俺様これから一生両腕なしで生きていくんだァって絶望してたらよぉ、ジタローさんがあっという間に治してくれたんだぜぇ! ケヒヒヒ」
「まあ凄い! ジタロー様は、剣の腕まで素晴らしいのね!」
……なんか、助けた女性たちとセッカマが物凄く意気投合していた。
「……その、彼女たちは盗賊に攫われたと思われる被害者でして。俺たちの取り分は彼女たちのために使ってくれたら助かります」
「ふむ、なるほど。聖職者らしい答えだな」
「そうなのよ! ジタロー様は、聖人様なのよ!」
値踏みするように俺を見るギルマスに、ニケがⅤサインをしながら答えた。
「そう言うことなら、盗品はギルドで扱わせて貰うぜ。……首の方は、見た感じ賞金ついてるのはいなそうだな。どうする? ギルドで預かってこっちで憲兵に引き渡すことも出来るが、自分でするか?」
「いえ、お願いできるならお願いしたいです」
「ギルドですると、懸賞金が出た時手数料としていくらか貰うことになるが……」
「問題ないです」
もう疲れたから早く帰りたいし、これ以上生首も見たくなかった。
「了解。お前らの中で手が空いてる奴は首と盗品を倉庫の方に持って行ってくれ! もうそろそろ日が暮れるし、片づけ終わったらお前らも帰って良いぞ」
ギルマスは、そう言いながらギルマス室に戻って行く。
受付嬢や、ギルドの職員と思われる人たちが次々に首と盗賊の宝を回収していく。女性でも物怖じすることなく生首を運んで行っていた。
そういう世界ってことなんだろうけど、凄い光景だ。
「ジタローさん、俺様、ジタローさんの宗教に改宗しようって思うんです」
異世界の日常に驚かされていると、セッカマがそんなことを言い出してきた。
「改宗?」
「ええ。彼女たちから教えて貰ったんですけど、ジタローさんって聖者様らしいじゃないっすか。……俺様、ジタローさんの子分なのに親分と信じる神が違うのっておかしいかなって思いやして。ケヒヒヒ」
……聖者様って。なんか意気投合してる様子だったけど、セッカマは彼女たちから何を吹き込まれたんだろう。
反応が一々大袈裟だったし、不安しかない。
けど、アストレア様を布教するのは俺の重要な使命の一つだし、セッカマが信者になってくれるというのは悪い話ではない。
「ああ、それはいい考えだな。これでセッカマもアストレ――「ヒャッハー! 許しが出たぜ! これで今日から俺様たち、ジタロー教団だぜ!」……え?」
「キャー、素敵! 私たちも、ジタロー教団名乗って良いかしら?」
「当たり前だァ! 俺様たち、同じ親分の下についた仲間じゃねえか!」
「「「ギャハハ、俺たちもジタロー教団の一員だぜぇ!」」」
セッカマの言葉に、女性たちから歓声が上がり、何故か冒険者たちも盛り上がっていた。
え? いや、ちょっと待って?
アストレア様の信徒を増やすのは良いけど、俺の信者が増えるのは話が違う。
「ちょ、ちょっと待って――」
「ううっ、盗賊に攫われて助けられたけど、帰って来ても私の居場所なんてないんじゃないかって不安だったの。でもジタロー様を尊敬し崇める仲間がいる。私たちに居場所まで用意してくれるなんて、ジタロー様は本当に神様みたいな人だわ」
助けた女性の一人が、涙をボロボロ零しながら俺に対する感謝を述べた。
確かに、盗賊に攫われて慰み者にされたのだ。帰って来ても、元通りの生活に戻るのは簡単ではないはずだ。
そんな中で、居場所があるというのは彼女たちにとって救いにもなるのだろう。
だからと言って、ジタロー教団なんて頭のおかしい宗教団体の設立を俺は黙認してしまって良いのか?
とりあえずセッカマに抗議してやろうと足を踏み出したとき、ミューが俺の服の裾を掴み、首を横に振った。
「諦めるのです。彼女たちの心の拠り所を取り上げたら可哀そうなのです」
「…………」
「良いことじゃない、ジタロー様の偉大さをみんなが知ることになるのよ?」
偉大でも何でもない俺の名前が一人歩きしそうだから嫌なんだよ……。
とはいえミューの言う通りでもあった。それに、さっきもそうだったけど訂正しても聞き入れてもらえる気がしないし……。
「帰るか」
「オレ、腹減った!」
「飯、いっぱいご馳走してやるよ」
「ジタローさん、今から飯なんですか?」
「そうだけど」
「だったら、俺様たちにご馳走させてくだせぇ! 今日は、ジタロー教団結成の宴をするぜぇ! ケヒヒヒ!」
「「「「「うぉおおお! 最高だぜセッカマ! 俺たちのジタロー教団に乾杯だ!!」」」」」
元々エルリン最強の冒険者であるセッカマが所属していたり、信仰を得たことで三人の女性たちがメキメキ力を伸ばして、ジタロー教団が活躍し、この町や周辺の村で影響力を高めていくのはまた別の話である――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます