19話 新しい仲間と信者
ミューの腕に抱かれている、小型犬サイズで蝙蝠の羽のようなものが生えた妙にファンシーな見た目の熊。
「その生き物? は何?」
「デビルベアーなのです。Cランク相当のモンスターだけど、人懐っこくて可愛いから貴族のペットとしてとても人気なのです」
「クマー!」
デビルベアー。直訳すると悪魔の熊。あっ、クマ。あクマ。
……ダジャレじゃねえか。しょうもねえ。
だが、可愛かった。あざといまでのファンシーな見た目、鳴き声。
猫耳美少女であるミューが抱くとぬいぐるみみたいで、更にファンシーさが増してとてもグッドだ。
「良いんじゃないか? 可愛いし。世話は出来るのか?」
「勿論なのです! ……でも、餌代がちょっぴり掛かるのです。使い魔契約を結べばミューの魔力を供給することで食費を多少は浮かせられると思うのですけど」
「別に良いぞ、それくらいなら」
「それと……この子、額の魔石が取られちゃってるのです。ご主人様の力で治して欲しいのです」
「そうなのか? 解った。『治す』」
治すを発動させると、普通の黒い毛並みに覆われていた額から青い菱形の宝石みたいな石が浮かび上がってくる。
ちゃんと『治す』は成功したらしい。……人間以外にもちゃんと効くのね。
「クマー!」
あクマは、喜びながらふにふにの肉球でぽむっと俺の手を叩いた。可愛ええ。
「ご主人様、ありがとなのです。デビルベアーも、感謝してるのです。……お礼と言っては何なのですけど、ご主人様にはこのデビルベアーに名付けをする権利を差し上げるのです」
「…………!?」
「使い魔にするには、名前が必須なのです。この子も、魔石を治してくれたご主人様に名付けられるのを望んでいると思うのです」
「な、なるほど……」
どうしよう。名付けとか、あんまり得意じゃないんだよなぁ。
「あクマ……は流石にアレだし、デビクマとか?」
「かなり安直な名前なのです」
ミューが呆れたような目をする。
「クマー! クマクマッ、デビクマー!」
あクマ……改めデビクマは、気に入ったように手をパチパチとしていた。
「……なんか、気に入ってるっぽいのです。ならまあ、良いのです。――“デビクマ”はミューの使い魔になるのです」
「クマー!」
ミューがデビクマの背中に手を当て、何やら魔法を発動させるとデビクマが両手を上げて返答をした。
「
今のが、使い魔契約だったらしい。ちゃんと成功したようだ。
「よろしくな、デビクマ」
「クマー!」
デビクマに手を差し出すと、肉球をペタンとしてくれた。ああ、可愛い。
仲間が一匹増えた。
「そう言えば、盗賊たちの宝の隠し場所は見つかったのか?」
「デビクマがいた場所なのです。結構いい感じだったので見に行くのです!」
「マジか!」
好感触なミューの言葉に期待して、小走りで宝の隠し場所まで移動する。
ファルがガサゴソと袋などをひっくり返すなどして、宝を物色していた。
宝のラインナップは酒や食料、それから服などの生活必需品が主だった。
他には質の悪い剣や、ボロボロの鎧、殆どが銅貨で偶に銀貨が混じっている感じの硬貨の山。
なんか勝手に、お城の宝物庫にあったようなお宝をイメージしてたから肩透かしな気分になる。まあでも冷静に考えて、こんなボロい鉱山を拠点にしてる盗賊の宝なのだ。そんな大それた品物があるはずもなかった。
「これは中々に悪くないわね」
「ああ。オレたちの取り分は、2割だったよな! とりあえず、酒と飯と、あとちょっと金をもらう感じだな」
「そうね。服とか武器はジタロー様に買って貰ったので十分だし……」
「え、何? ここにあるもの食べるの?」
「そりゃそうだろ」
冷蔵庫ってわけでもない場所に保存されてた食料とか、衛生管理めちゃくちゃ怪しいし、食中毒とか怖いからあまり食べたくない。
「……うーん。盗品は、全部ギルドに渡さないか? 一応盗品だから持ち主に返るならそっちの方が良いだろ?」
銀貨や銅貨も、回収したってマジックポーチが重くなるだけだし。服も汚いから着たくない。
「お人好しね。……まあジタロー様がそんな人だから私たちは今、五体満足で生きていられるわけだし文句はないわ」
「ミューも、デビクマを使い魔にしたから反対はしないのです」
「まあ、オレもどうしても欲しいものはなかったし、ダンナがそう言うなら良いや」
そう言ってファルも物色を止めて、宝の在処から出てくる。
そして俺たちは、さっきの盗賊のアジトの方に戻った。
床には盗賊団の死体が転がっていた。
三枚に卸されていたり、上半身と下半身が泣き別れになっている狼男の死体、首と身体が斬られて転がっている虎の獣人の死体。元の種族が最早解らなくなってしまっている頭が潰されている死体。
アジトの床は血で濡れていて、臓物や汚物が散らばっている。
我慢できないほどではないけど、とても酷い臭いだった。息したくない。
そんな汚い床に、3人ほど裸の女性が転がっていた。
そう言えば、このアジトに入る前女の悲鳴と嬌声の混じったような声が聞こえていたのを思い出す。
近くに行ってみると、虚ろな目をしていて、譫言のように「いや……いや……」と小さく呟いていた。
どうやら生きてはいるらしい。
見た感じ、四肢の欠損や外傷は見当たらない。ただ、散々犯されてきたのか髪も身体も股間も、体液でべったりと汚れてしまっている。
心も壊れてしまっている様子だった。
「『治す』」
ニケの時に、身体の汚れも『治す』で綺麗に出来ることを学んだので、床で転がっている女性たちに『治す』を掛けていく。
……散々酷い目に遭ったみたいだし、壊れた心まで治るかは解らないけど。
心配していると、倒れていた女性が一人、ムクッと起き上がる。
上半身を起こした彼女はキョロキョロと周りを見て、盗賊団の死体と俺の姿を視認する。
「人間……ひっ、亜人」
起き上がった女性は、ニケ達の姿を見て怯えた。
「そ、その、その亜人は奴隷ですか」
「ああ」
「……ってことは、貴方は冒険者ですか」
「そうだな」
質問に答えると、女性は目からボロボロと涙を流し始めた。
「私、私……夜道を歩いていたら、いきなり後ろから殴られて、気付いたらこんな場所に連れてこられて、毎日毎日辱められて来たの。死にたいのに、怖くて自殺することも出来ない。そんな日々を過ごしていたわ」
泣きながら、女性は語る。
「貴方が、私を助けてくれたのね。……その格好マモーン様のではなさそうだけど、他国の神父様かしら?」
「ジタロー様はね、聖者様なのよ!」
「聖者……! なるほど、私を助けてくださったのは、聖者様だったのね。ありがとう、ありがとうございます」
女性は涙を流しながら、俺の裾に縋って感謝を述べていた。
抗議の意思を持ってニケを見ると、サムズアップで返された。
聖者なんて称号重すぎるし、否定したいけど、散々酷い目に合って心が壊れかけているであろう女性を突っぱねるような真似は、俺にはできなかった。
なんかチャンスっぽかったので、アストレア様を布教することにする。
「これも、女神アストレア様のご導きです」
「アストレア、様。聞いたことない神の名前ですが、それがジタロー様の神のお名前なのですか?」
「はい。貴方を助けられることが出来たのは、全てアストレア様のおかげなのです」
「ありがとうございます。……毎日毎日苦しくて、祈りを捧げても、マモーン様は私を助けてくれなかった。私、改宗します。今日からは、毎日ジタロー様に祈りを捧げます!」
女性は涙を流し五体投地の姿勢を取って、そう言った。
「い、いや、俺じゃなくて、アストレア様に捧げて……?」
大袈裟過ぎるくらいに俺に感謝を捧げる女性の反応に困っていると、残り二人の女性もムクリと起き上がる。
「「ひっ、亜人……」」
「彼女たちは、私たちを救い出してくれた救世主ジタロー様の奴隷……いや、下僕だそうです。安心してください」
ニケたちの姿を見て怯えを見せた二人の女性は、さっきの女性の説明を受けて俺の方を涙を流しながら見ていた。
「「私たちも、今日からはマモーン様ではなくジタロー様に祈りを捧げます」」
「い、いや、だからそれはアストレア様に……」
二人の女性は土下座の姿勢で俺に祈りを捧げてくる。
三人とも、俺の話は聞いてくれる様子はない。
アストレア様を布教するはずだったのに、何故か俺の信者が3人増えた。
「……そう言えば、今回の依頼って盗賊の身柄もしくは首を憲兵団に差し出せってなってたけど、達成の報告するにはこれ、ギルドまで運ばなきゃいけないのか?」
「そうなんじゃないかしら?」
少し気まずくて話を変えると、質問するとニケがあっけらかんと答えた。
えっ、死体運ばないといけないの?
「オレ、力仕事には自信があるぜ!」
ファルが力こぶを作って見せる。
転がってる死体は13人分。いや、限度があるだろう。如何にファルが力持ちでもこれを運ぶのは大変だ。
「ミューも、自分が討伐した分くらいは魔法で運べるのです!」
ミューの魔法で6人運べる。
だとしても、あと7人か。ファルに頑張って4人運んで貰うとして、ニケ2人、俺1人……いや、結構大変だな。
その上、あの宝も運ぶことを考えると手が足りない。
まさか治したばかりの彼女たちに頼むわけにもいかないし……。
「私たちにも、手伝わせてください!」
困っていると、治した女性の一人が提案する。
「確かに、荷物運ぶの手伝って貰えるなら助かるけど……大丈夫なの?」
「大丈夫です! ジタロー様に治してもらったお陰で元気ですし、私たちには大したことは出来ないかもしれないけど、少しでも大恩人であるジタロー様のお役に立ちたいんです」
女性は立ち上がり、熱の籠った眼差しでそう主張してくる。
「そう言うことなら、お願いするよ。……でも、無理はしないようにね?」
「はい!」
「それと、宝の場所に服もあったから……」
女性は、ずっと犯されていたからか全裸だ。暗いからはっきり見えるわけではないけど、紳士として目を反らしておく。
「きゃぁっ」
今更自分が裸であったことに気づいたのか、恥ずかしそうに身体を隠した。
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