18話 盗賊団討伐依頼
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俺たちが入ったのとは別の場所にある出入り口を抜け、道なりに30分ほど歩くとエルリン廃鉱山に到着した。
「盗賊のアジトがあるって聞いてたからもっと辺鄙なところにあると思ってたけど、近いんだな」
「盗賊も人間なのです。あんまり人里から離れると生きていけないのです」
ミューに、盗賊が生きた人間だと言われてドキリとする。
ダマカスの時はアストレア様の神託があったから特に躊躇はなかったけど、改めて言われると少し怖気づいてしまう。
「よし、盗賊いっぱいぶっ殺すぞー!」
「試し撃ちするのです!」
ファルが堂々と鉱山の入り口に入っていき、ミューがそれに続く。
「ちょ、ちょっと待てよ」
二人だけ先に行かせるわけにもいかないので、俺はそれを慌てて追いかける。ニケが俺の後ろに続く。
「な、なぁ、そんな堂々と入って大丈夫なのか?」
「何がだ?」
振り返ったファルが心底不思議そうな顔をする。
「いや、ここ盗賊団のアジトがあるんだろ? 地の利はあっちにあるだろうし、奇襲とかされたら危なくないか?」
「それなら大丈夫なのです。既に探知魔法を展開してるのです」
「オレも熱源感知が出来るから、安心してくれて良いぜ!」
ミューがドヤ顔で、ファルが親指を立てて答えてくれる。
なら、心配はなさそうだ。
「あ、それとダンナ。今回は、ダンナは手を出さないでくれ。盗賊退治はオレたちに任せてくれ」
「ああ、解った」
「私たちが、ジタロー様をちゃんと護衛できる優秀な下僕だってことを示すのよ!」
「おう、そうだな!」
「ご主人様に、試し撃ちの的は渡さないのです」
方向性は違えども、三人ともやる気の様子だった。
生きた人間と戦うって聞かされて怖気づいていたから、正直助かる。
「!! 敵発見、10m先右の角なのです」
「了解!」
「ファル、生け捕りにして欲しいのです!」
「ああ!」
ミューが魔法で感知したのか、敵の在処を言うとファルがものすごい勢いで走って行った。10秒も経たずに、ファルが帰ってくる。
ファルの右手は巨大化しており、赤い鱗が生えている。形も、人間のそれではなくドラゴンの鉤爪みたいな形になっていた。
そしてその巨大化した手には、白目を剥き頭から血を流している半裸の狼男が握られていた。
「……これ、生きてるのです? ミューが生け捕りにしてほしいって言ったのは、こいつに本拠地を案内させたかったからなのです。完全に気絶されてると、案内させられないのです」
「なら最初からそう言ってくれよ!」
「……言う暇もなく、ファルが行っちゃったのです」
悪びれないファルと、呆れた顔をするミュー。少し喧嘩が勃発しそうな気配があった。
「気絶がダメなら、俺が起こすか?」
「……お願いするのです」
「『治す』」
まあ、気絶した敵を治すのは手伝ったうちにも入らないだろう。
俺が『治す』と、狼男の流血が止まり即座に目を覚ます。
「痛っ、離せ! 痛ぇっ! 離せ!」
ファルに頭を握られて痛いのか狼男は暴れるけど、ファルの体幹はビクとも動かない。その間にミューは、腰のブックホルダーから取り出した魔導書を開いた。
「『増魔の書』……
ミューが何か魔法のようなものを発動すると、暴れていた狼男は虚ろな目で大人しくなった。ファルが地面に下ろすと、糸で操られたマリオネットみたいな力の抜けた奇妙な立ち方をする。
「ミューはね、私たちの故郷にあった魔法書の全ての内容を記憶しているから色んな魔法が使えるの。その中でも特に人形やゴーレムを操る魔法を得意としてるのよ!」
ニケが得意げな顔で解説した。
ミューはニケに褒められてニヨニヨとしていた。
そっか。ミューって色んな魔法を使えるのか。……今度、俺にも使える魔法がないか聞いてみよう。
やはり、異世界に来たのだから魔法を使ってみたいという憧れはあるのだ。
「ミューは凄いな」
「本拠地に着いたらもっと凄い魔法も見せてあげるのです」
それは、楽しみだ。
「おいミュー、オレたちも戦いたいんだから一人で全部片づけるとかは止めろよ?」
「約束はしかねるのです」
「おい!」
「
ミューが指示を出すと、狼男は奇妙な動きで奥へと進んでいく。
俺たちはその後を着いていく。
「あんっ、あんっ。きゃぁぁ、嫌っ、あぁっ……」
暫く歩いていると、暗い廃鉱山内の道に目立つ光が見える。
それと同時に女の悲鳴と矯正の混じったような声が響いて聞こえてきた。
ミューの魔法で操られている狼男は、奇妙な動きで声が聞こえる部屋の中に入って行った。どうやら、アジトはあの部屋にあるらしい。
「よっしゃぁ、オレが一番乗りだァ!」
ファルが物凄いスピードで、部屋に向かって走っていく。
ファルの身体は一回り大きくなり、両手ともドラゴンの鉤爪みたいな形に変形していた。ファルは、自分の身体の一部をドラゴンの姿に変形して戦う近接タイプの戦士らしい。
「ちょ、ちょっと待つのです!」
ミューが少し急ぎ気味にファルの後を追う。
ニケはやる気十分だった割に、二人の後には続かず。俺の側を離れない。
「二人とも先走っちゃって……。ジタロー様のことは私が守るわ!」
ニケは、俺の護衛をしてくれるらしい。頼もしい。
「うわぁぁあ! 敵襲だ!」
「な、なんだ!? 騎士団か!?」
「げっ、ドラゴニュートだ!!」
ファルが突入すると、男たちの悲鳴のような声が聞こえる。
「食らえ! 必殺、ファルニーフストライク!」
ゴォォ、と鉱山内が少し揺れる。
部屋に辿り着くと、ファルは鬼神のように大暴れしていた。ファルの赤い竜の爪が、狼男を三枚おろしに引き裂く。
そして後ろにいる、弓を構えたエルフ耳の男の頭を掴んで首を引きちぎった。
飛んできた矢はファルの赤い鱗が、弾いた。
ファル、圧倒的に強いな。それでいて容赦がない。
ファルに攻撃された盗賊は、確実に死んでいる。
「ファル、しょっぱなから暴れ過ぎなのです。ミューの分は残してて欲しいのです」
「そんなの、早い者勝ちに決まってるだろ!」
そう言ってファルは、更に猪の顔をした男の首を爪で抉って殺した。
「『増魔の書』『合魔の書』……
ミューが、二つの魔導書を開いて魔法を発動させる。
アジト内の土が抉れ、その形がどんどん人の形へと変形していく。
頭には猫耳を生やし、お尻からは尻尾を生やす。よく見ると、その顔はニケそっくりだった。手には、格好いいロングソードが持たれている。
そして、ゴーレムだから当然なのかもしれないが、精巧に作られたニケの人形は服を着ていなかった。
流石に乳首や股間はツルツルで全年齢クオリティではあったけど、ボディラインだけで結構エロい。
奴隷になってガリガリに痩せる前は、こんな感じだったのだろうか?
「み、見ないで! ジタロー様、見ないで!」
ニケが顔を真っ赤にしながら、俺の前であわあわと手を振ってゴーレムを見えないようにする。
「ちょっと、ミュー。その人形止めてっていつも言ってるじゃない!」
「……魔法はイメージがとても大事なのです。姉様はミューのヒーローだから、姉様の姿のゴーレムは絶対に負けないのです!」
ニケのゴーレムが、剣で盗賊たちを薙ぎ払う。
武器を構えていた狼男の盗賊を、武器ごと切断し上半身と下半身を泣き別れにする。そして武器だけ破壊されたものの何とか一太刀目の攻撃を逃れた他二人の狼獣人を追撃の太刀で容赦なく仕留めた。
強さも凄まじかった。
美少女型ゴーレムが強いって言うのは、ロマンを感じる。……頼めば俺の分も一つ作ってくれたりしないだろうか?
怒っていたはずのニケは、ミューにヒーローと言われたのは嬉しかったのか複雑そうな表情をしていた。
「くっそぉぉおおお!! 亜人たちは奴隷だ! 主人を殺せば勝機はあるぜ! 死ねえええええ!」
虎顔の獣人が、錆びた斧を振り回しながら俺の方へ全力で襲い掛かってくる。
「私に任せて」
ニケはそう言って庇うように俺の前に出て、ショートソードを抜いた。
「ぴぎゃぁっ!」
次の瞬間には、虎顔の首が宙に舞っていた。ニケは倒れ込んでくる獣人の身体を蹴って飛ばし、落ちてくる虎獣人の首を綺麗にキャッチする。
あまりにも洗練された早業は、何が起こったのか目で追うのがやっとだった。
「どう?」
「ニケは強いんだな。頼りになるよ」
「えへへ。ジタロー様のことは私が守るわ!」
ドヤ顔で聞いてきたニケに率直な感想を述べると、得意げに胸を叩いた。本当に頼りになる。
「ジタロー様、首、あげるわ」
「そ、それは良いかな……」
斬られた生首を持てるほど俺の神経は太くないので遠慮すると、ニケはシュンと猫耳を折りたたんだ。
「しゃぁっ、いっぱい倒したぜぇ! オレは6人!」
「……ミューは5人だったのです。一応操ったの含めれば6人なのです」
「なら引き分けだな!」
「負けた気分なのです」
テンション高めに親指を立てるファルと、少し悔しそうなミュー。
「ファルもミューも、ありがとな。助かったぜ」
「おう、これからもドーンとオレたちを頼りにしてくれて良いぜ!」
「ふん。これくらい当然なのです」
ファルはⅤサインをして、ミューは満更でもなさそうに笑った。
「そう言えば、ここの宝の2割は俺たちが報酬として貰って良いんだよな?」
「そうだな! 宝探しだ!」
「はぅぁっ! しまったのです。宝の在処に案内させるように、一人生かしておくべきだったのです!」
「まあ良いじゃない。敵は片づけたんだし、ゆっくり探せば」
頭を抱えるミューをニケが励ます。
「おーい、こっちにすげぇもんあるぜ!!」
暫くすると、奥からファルの元気な声が響いた。
俺が声の方へ向かう前に、ファルと一緒に行動していたミューがこちらに向かって走ってくる。
「ご主人様、この子、ミューの使い魔にしたいのです!!」
ミューの腕の中には、蝙蝠の羽のようなものが生えた小型犬サイズの熊がファンシーな鳴き声を上げながら、陽気に手を振っていた。
「クマー!」
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