すずむ

 みーん、みーん、みーん、…………。

 じーっ、じーっ、じーっ、…………。


 蝉時雨、時々野球部の掛け声。アスファルトでも吸収しきれないそれが、わたしたちに降り注ぐ。汗はどんどん流れ出ていて、足元に水たまりを作ってしまいそうな勢いでした。


 沈黙。

 沈黙。

 蝉時雨。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。


 どれくらい沈黙していたのでしょうか、しばらくして、桜くんが動き始めました。ただ、顔は真っ赤で、動きもぎこちない。先程まではあんなに私を射抜いていたのに、今は目を合わせようともしません。


 知ったことか。


 「桜くん、私と本当のカップルになってください」


 追い打ちをかけるように、更に斬りつけました。

 桜くんは更に赤くなって、んぐ、と何かを飲み込むような音を立てます。最終的には両手で顔を覆って、ずるずると座り込んでしまいました。もしや、熱中症になったのでしょうか。それはいけない、と思って、慌てて駆け寄ります。


 「桜くん、大丈夫ですか!?」

 「ぃ、じょお、……ぅ」

 「何か、冷やすものを……」


 蚊の泣くような声。肌も赤くなっていて、重症の可能性あり。そう判断して立ち上がると、袖を掴まれます。


 「だいっ、じょうぶ、だから!だから、待て、待って、琥珀さん!」


 返事をさせて、とやや涙目になりながら告げる桜くん。つられて、私も赤くなってしまいます。


 返事とはつまり、私の告白の返事。


 どんな回答も受け入れる所存です。これまでの関係が崩れてしまっても、嫌われてしまっても仕方ありません。その覚悟を背負って、斬りかかったのですから。たとえ手酷く断られようと、絶縁されようと、きちんと受け入れます。


 「…………」

 「…………」


 再び、沈黙が広がります。心臓がばくばくと耳元で鳴っていて、視界がちょっと揺らいでいて。桜くんが口を開いては噤むたび、胸がきゅう、と締め付けられます。


 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」


 沈黙、沈黙、沈黙。


 そして、







 「…………俺、も、琥珀さんのこと」












 「好き」












 一瞬、自分の耳を疑いました。桜くんが、私のことを「好き」、と。これは夢なのか、現実なのか疑って、手の甲をつねって、現実だと思い知らされます。




 ええと、つまり、私は桜くんが好きで、桜くんも私が好き。




 




 私と桜くんは、本物のカップルになれる。






 理解した瞬間、ブワ、と全身熱くなって、呼吸ができなくなって、次いで弛緩します。へなへなと座り込む私に慌てたのか、今度は桜くんが私に寄り添いました。


 「こっ、琥珀さん!大丈夫!?」

 「だい……じょうぶ、です。…………あは、あはは、ああ、良かった」

 「なっ、泣いてる……!?」

 「嬉しくて、つい」


 ああ、良かった。本当に良かった。幸せでいっぱいだ。嬉しくて、涙が溢れてしまう。




 告白して良かった。

 成功して良かった。

 両想いで良かった。




 「な、泣かないで〜……。俺まで、俺、まで泣きたくなっちゃうから…………!」

 「あは、何で桜くんまで、…………っ。ほんとに、本当に、良かった……っ!」


 とうとう桜くんまで泣き出して、お互いに抱きしめて慰め合います。まるで子供のように、泣いて、泣いて。




 そうやってまた時間が経って、落ち着いて、改めて向き合いました。


 「桜くん」

 「はい」

 「これから、よろしくお願いします」

 「俺こそ、これからよろしく、琥珀さん」

 「絶対、幸せにしますから」

 「ふふ、プロポーズみたいだなぁ」

 「私を好きになってくれたこと、後悔させませんから、だから」






 「私と一緒に、幸せになってください」

 「こちらこそ、俺と一緒に、楽しい時間を過ごしていこう」






 頬が、耳が、顔が、全身が熱くて、嬉しくて、幸せでした。

 暑さで頭がクラクラして、おかしくなってしまいそうでした。










 あぁ、早く。
















 桜くんと、すずみたい。

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すずむ あしゃる @ashal6

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