第十一話 ジャグラー父子の華麗なる舞台

前回のあらすじ

 ソフィアはエレナに励まされ、ジャンヌとも仲良くなりたいという思いを新たにした。母の言葉に勇気づけられたソフィアは、練習への意欲を新たにし、友への思いを胸に練習場へと駆けていった。



 穏やかな昼下がりの日差しの中、ソフィアは練習に向けてフェリックスの個室がある楽屋へと足を進めていた。テント群を抜けると、楽屋の建物が見えてくる。楽屋の前に設けられた練習用の簡易ステージに、クリストフとその父親のチャーリーがいるのが見えた。


 木枠きわくとロープで作られた直径三メートルほどの円形ステージの上で、クリストフは色とりどりのボールを巧みに操り、華麗なジャグリングを披露していた。時折ボールを落としてしまうこともあるが、すぐに拾い上げ、演技を続けている。ステージの周りには、クリストフの練習に使う道具が並べられていた。


「ソフィ、こっちだよ!」


 クリストフの元気な声が、ソフィアに呼びかけた。片手を高く上げ、大きく手を振っている。


「ソフィア、せっかくだから練習を見てくかい?」


 優しい眼差しでソフィアを見つめるチャーリーの表情は、彼女を歓迎しているようだった。


 チャーリーの明るい茶色の髪は、ふわふわとしたショートヘアだ。カラフルなパッチワークで作られた衣装は、楽しげな雰囲気を醸し出している。足元には、特徴的な大きな靴が目を引く。


「はい、ぜひ見学させてください!」


 ソフィアは観客席に駆け寄り、一番前の席に座って背筋を伸ばした。それを見届けたクリストフは、カラフルなボールを手に取る。


「ほら、ソフィも見ててね!」


 クリストフはボールを高く投げ上げた。三つのボールが宙を舞い、器用な手さばきで次々とキャッチされる。


 ソフィアは目を輝かせながら、うなずいた。


「すごいよクリス、前よりうまくなってる!」


 クリストフはソフィアの声に応えるように、ボールを投げるリズムを速めた。黄色、赤、青のボールが目まぐるしく入れ替わり、複雑なパターンを描く。


 クリストフの隣では、チャーリーもジャグリングに加わっていた。クリストフが投げ上げたボールを器用に受け取り、息の合ったパス回しを披露する。


「いいねえ、その調子だよ! ボールをコントロールする感覚は、もう自分の手の一部みたいになってきただろ?」


 チャーリーは、受け取ったボールをクルリと回転させてクリストフに返した。


「うん、だいぶ慣れてきた気がする。でも、時々ボールが自由すぎるんだよね」


 クリストフはジャグリングのリズムを崩さず、ボールを操りながら答えた。


「ボールを自由にするんじゃなくて、お前がボールを自在に動かせるようにするんだ」


「ふふっ、クリスとチャーリーさんって、仲良しなんだね」


 二人のスピードが加速していく。カラフルなボールが目にも留まらぬ速さで交差し、輪を描く。クリストフとチャーリーは息を合わせ、四つのボールを高く放り投げた。一瞬の静寂の後、ボールは見事に二人の手の中で交差し、パフォーマンスは幕を閉じた。


 ソフィアは席から立ち上がると、思わず大きな拍手を送っていた。拍手が練習場に響き渡る。クリストフとチャーリーは笑みを浮かべ、ソフィアに向かって手を振った。


「ありがとう、ソフィ! これからフェリックスさんと一緒に練習するんだよね。頑張って。応援してるよ!」


「ほら、ソフィア。フェリックスさんにこう伝えるんだ。『娘さんはまるでダイヤの原石だ。これから君の手で磨かれて成長するんだろうなぁ。楽しみにしてるよ。でないとチャーリーのピエロ靴で踏んづけちゃうぞ!』なんてね。ほら、笑って! フェリックスさんもきっと喜ぶよ」


 ソフィアの表情はほころんだ。


「ありがとうございます、チャーリーさん。パパにそう伝えておきます」


 ソフィアはクリストフとチャーリーに頭を下げ、練習場を後にした。

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