第二章 サーカスの旅に紡ぐきずなと別れ

第一話 転校の思い出

前回のあらすじ

 ソフィアは家族や親友との温かい思い出を振り返ることで、徐々に勇気を取り戻していった。そして、大切な人たちに支えられていることを実感し、希望を胸に新しい一日の始まりを待つのであった。



 深みのある茶色の木目が美しいキャラバン内部に、小窓こまどから差し込む朝日が柔らかな光を投げかける。フェリックス一家の移動式の我が家である「ヴァンダーライト号」は、家族のきずなと団員との交流の場だ。


 小さなベッドで目覚めたソフィアは、伸びをしながらゆっくりと身体を起こした。


「ん……朝だ」


 とつぶやくと、ベッドサイドに置かれた母の手編みのマフラーに気づく。


「ママ……」


 心の中でつぶやきながら、ソフィアはマフラーを手に取り、微笑んだ。母の香りを感じ、大切そうに身に着けると、キッチンへ向かった。


「ママ、おはよう! 朝ごはんのお手伝い、何かある?」


 キッチンに入ったソフィアが明るく声をかける。


 エレナは娘を見つめ、


「おはよう、ソフィア。あら、もうマフラーしてくれたのね。さあ、このパンを切っていてくれる?」


 と頼んだ。


 ソフィアはパンを切り分けていると、不安げな表情を浮かべた。


「ママ……今日から新しい学校だけど……ちょっと心配。転校のたびに友達とお別れするの、寂しくて……エミリーともまだ会えないし……」


 声は震え、瞳には涙が浮かんでいた。


 エレナは寄り添い、ソフィアの頭をなでた。


「その気持ち、よくわかるわ。でもソフィアなら、また新しい素敵な出会いがあるはず」


「本当は不安だけど……でも、ママの言葉で勇気が出てきたよ」


 ソフィアは涙を拭いて微笑んだ。


「そうよ、その調子。エミリーとの思い出は胸に秘めて、新しい一歩を踏み出すのよ」


 エレナの励ましに、ソフィアは涙を拭いながらも、うなずいた。


「そうだね。新しい学校でも頑張ってみるよ」


 ソフィアの言葉に、エレナはうなずき、娘の背中をそっとなでた。


 キッチンの小窓からは、サーカス団のキャラバン車が並ぶ光景が見える。朝日に照らされ、カラフルなキャラバン車が輝いている。その光景を見つめるソフィアの瞳には、希望の光が宿っていた。 


「ねえママ、パパはまだ寝てるの?」


 ソフィアが尋ねると、エレナは


「ええ、そろそろ起こしに行ってくれる?」


 と頼んだ。


 ソフィアは元気よく「はーい!」と答えると、フェリックスを起こしに寝室へ向かった。


 父に飛びつくように抱きつき呼びかける。


「パパ、朝だよ! 起きて起きて!」


 愛する娘の声に、フェリックスは目覚め、ソフィアの頭をなでた。


 家族三人、木の温もりに包まれたダイニングで朝食を囲む。


「パパ、私、また転校だ。ちょっと緊張してる……」


 と打ち明けるソフィアに、フェリックスは


「ソフィアの明るさと優しさなら、きっと大丈夫さ。信じてるよ」


 と励ましの言葉をかけた。


 父の言葉が、ソフィアに勇気を与える。焼きたてのパンの香りと家族のきずなに包まれ、ソフィアはほんのり笑顔を浮かべたのだった。

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