第七話 新しい学校生活への期待と不安

前回のあらすじ

 エレナは娘のソフィアに、自分の夢を追いかけつつ、家族のきずなを大切にする方法を見つけてほしいと伝えた。ソフィアは母の言葉の重みを感じ、うなずいた。そのとき、フェリックスが疲れた様子で帰宅し、ソフィアとエレナの視線が彼に注がれた。



「パパ、おかえりなさい!」


 ソフィアは軽やかな足取りでフェリックスのもとへと駆け寄ると、腰に腕を回して力いっぱい抱きついた。


 フェリックスはソフィアの頭を優しくなでながら言葉をかける。


「公演のあと片付けも手伝ってくれたんだって。ありがとう」


 ソフィアは誇らしげに胸を張って言った。


「当たり前だよ! 私もサーカス団の一員だもん。みんなを支えるのが、私の大切な役目なんだから」


 感慨深げにうなずきながら、フェリックスはソフィアを優しく抱擁した。


 家族三人は、笑顔を交わしながら夜食を囲んだ。テーブルの上には、エレナ特製のキャベツスープが温かな湯気を立てている。スープを一口飲むと、体の芯まで染み渡っていく。


 夜食を楽しむ中で、ソフィアはふとマジックの練習のことを思い出した。


「ねえパパ、放課後、私にマジックを教えて。もっと上手くなりたいの」


「もちろんだとも。君の腕前がどれほど上達したか、楽しみにしているよ」


「やった! ありがとう、パパ。私、もっと上手くなって、パパみたいに舞台に立ちたいの」


「夢に向かってがんばるソフィアを、いつでも応援してるわ」


 食事の後片付けを済ませると、ソフィアは自分だけの心地よい小さなベッドに潜り込んだ。今日一日を振り返る。


 楽屋での練習、舞台袖ぶたいそでの片付け。クリストフとの楽しい会話。両親との温かな食卓。明日への期待と不安。


 ソフィアは、明日からの新しい学校生活に思いをはせていた。初めての教室、初めての先生、初めての友達。新しい環境で自分の居場所を見つけられるだろうか。そんな期待に胸が高鳴る一方で、苦く辛い過去の経験が脳裏をよぎる。


 今回は違うかもしれない。そう自分に言い聞かせながら、ソフィアは目を閉じた。不安に震える心を必死でなだめながら、ソフィアは家族との大切な思い出を一つ一つ振り返った。


 公演後の楽屋で、パパが自分の頭を優しくなでてくれたこと。『君の手さばきは日に日に上達しているよ』そう言って、パパが自分を抱きしめてくれた時の安心感を思い出す。


 夜食の支度をしながら、ママが自分の夢を応援してくれたこと。『ソフィア、あなたには自分の夢を追いかけてほしい』ママの言葉には、娘の未来を心から願う愛情があふれていた。


 舞台袖の片付け中、クリストフが駆けつけて手伝ってくれたこと。『ソフィアならできるよ。努力を怠らない君の姿勢は、本物のマジシャンそのものだ』友の言葉に込められた友情の深さを、胸を熱くしながら改めて感じずにはいられない。


 大切な人たちとの一つ一つの思い出が、ソフィアの心を少しずつ温めていく。家族や友に支えられている。一人ではない。そう感じた時、不安は徐々にその姿を消していった。心地よい柔らかな毛布に包まれながら、ソフィアはゆっくりと夢の世界へと旅立っていった。

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