次の日の朝、やはり兄貴からの返信はなかった。兄貴も、俺を避けている。分かっていたことだ。三年前、キスみたいなことをした。それを兄貴は多分、まだ後悔している。あっさり忘れればいい記憶だ。たかが思春期の気の迷いくらい。それでも忘れられないのは、俺たちが兄弟だからに他ならない。時々俺は、血縁なんて真底面倒なものだと思う。兄貴を避けたり避けられたり、俺や兄貴のためにくたくたになるまで働く瑞樹ちゃんを見るたびに。

 喫茶店でのバイトを終え、店を出て家へ向かって歩いている途中に、スマホが震えた。兄貴だ、と、直感した。スマホをジーンズのポケットから引き出すのに、数秒の間がいった。理由は、分からないし分かりたくもない。

 ラインは、思った通り兄貴からだった。文面は、俺のと同じように簡潔。

 『六時に。』

 四時にバイトを上がり、五時に瑞樹ちゃんを起こし、そこから兄貴の家の近くのファミレスまで向かうと着くのは大体六時。兄貴もまだ、俺の生活パターンを忘れていない。

 俺は、蒟蒻麺を探すのは明日にして、急いで家に帰った。瑞樹ちゃんの晩御飯を作ってから出かけたかった。瑞樹ちゃんは料理が苦手というか、食べ物にあまり興味がないので、俺が食わせないとなにも食わずに仕事に行く。酒をたくさん飲む仕事なのだから、それはやめてほしかった。冷蔵庫に、昨日使った豆腐の残りがあるはずだから、今日はそれを使って具だくさんの肉団子スープでも作ろう。

 家へ着くと四時半。急いで夕飯を作り、合間に瑞樹ちゃんを起こす。

 「……春人?」

 「雪人の方。」

 「おはよー。」

 「おはよ。今日は肉団子スープだよ。生姜をたくさん入れたから、代謝が上ると思うよ。」

 「さすが我が家の料理の鉄人。」

 「兄貴のとこ、行ってくるよ。」

 「うん。……よろしくね。」

 「うん。」

 瑞樹ちゃんがシャワーを浴びている間に料理を仕上げ、リビングのテーブルの上にセットして、家を出たのは五時半。兄貴の家の近くのガストまでは、三十分で行ける。

 家から徒歩五分の駅から電車に乗り、六駅目で降りて徒歩五分。一本煙草が吸いたいな、と思って腕時計を覗き込むと、丁度六時だった。俺は、煙草を諦めてガストの店内に入った。

 兄貴は、三秒で見つかった。店を入ってすぐの席に座っていたから。こちらに背中を向けてはいたけれど、肘をついた、軽く傾くような座りかたには見覚えがありすぎるほどあった。

 二年ぶりだ。もっと、誰だか分からなくなるくらい変わっていてくれればよかったのに。

 

 

 

 

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