22 こんな時だからこそ、地道にね……怒ってないですよ、ええ(プルプル)
『よう、お前ら元気ー? 俺達は絶好調だぜー!
なんせ領主にスカウトされたからな。
よくよく考えてみれば、俺らが知らないガキの為に我慢する必要なんかないからな。
贅沢な生活がしたい奴はこっちに来ると良いんじゃね?
まぁ、良かったら来いよ。
俺が口きいてやるからさ』
「うふ、うふふふふふふふ……!!!」
――
ええ、それはもうニッコリと。
こうやって笑わないと感情を抑えられないからNE☆
……抑えられてない? うん、それはそう。
というか、手紙をグシャグシャにしなかった事は褒められてもいいんじゃないかなと思ったり。
いや、それを言えば先に手紙を読んだ皆の方が偉いよね、と思い直す私。
事前情報を知らずにこれを読んだら、私はちょっと手紙を握り潰さずにはいられないと思うので。
私は、あまり人の好き嫌いをしたくないんですよ。
そもそも私自身褒められる人間じゃないから、人の事を軽々しく嫌う事なんかできないよね。
でもね、何事にも例外はあるんですよ、ええ。
「落ち着け。気持ちはよく分かるが。ああ、凄まじく分かる」
――実際、寺虎くん達の考え、行動が理解できないわけじゃないんだよね。
見ず知らずの誰かの為に自分達の行動が阻害される事に何も感じずにいられない人は少ないと思う。
今、確かに私も寺虎くんたちに憤りを感じてはいるし。
だけど、それは行動を阻害されたからとかではない――せめて、皆に相談してからであってほしかったなぁ。
そうしたらまた何か違った打開策、お互いの主張を尊重し合った結論が生まれていたかもしれないじゃないのー。
――でも、よくよく考えてみれば、それは私達もそうだったのかもしれないなぁ。
「昨日レーラちゃんの事を話し合って面倒を見ようと決めた時、特に誰も反論なかったから、皆の気持ち、そんなに離れてないって思ってた。
でも――皆我慢してただけだったのかな」
昨日の事を思い返して、私は呟いた。
レーラちゃんを――今はベッドで眠っている――受け入れてくれた事が嬉しくて、私達は、いや、私は、見たくないものを無意識に見ようとしなかったのだろうか。
そう思い返す事で、私は過剰な怒りを感じてしまった自分が情けなくなった。
昨日の彼らも先程までの私と同じだったのかもしれない、と。
レーラちゃんの事はきっと間違えていない――けれど。
「いや、アイツらは特に何も考えてないだけだろ」
「うん、俺もそう思う」
そうして考え込む私に堅砂くん、そしてレーラちゃんを助けてくれた
彼はなんとなく何処となく、ここにはいない寺虎くん達への表情であるかのような、呆れた顔で言った。
「そもそも他はともかく寺虎は特に声デカいだろ。異世界に来た最初から。
そんな奴なんだ、不満があるんなら最初から口に出してるさ」
「ああ、間違いない。だから別に君や守尋達が気に病むような事じゃないだろ」
「おおー、堅砂がそう言ってくれるのは嬉しいな」
「これ以上の不和を起こしたくないだけだ。
実際、これからの話し合い次第でまた厄介な事になるかもしれないしな」
と、堅砂くんは心配していたのだが、その後の話し合いそのものは荒れる事はなかった。
皆は彼らの行動に大いに怒っていて、寺虎くんの――領主の息子さんの所に行こうという人は現れなかったのだ。
そして、私が余程煮詰まった表情をしていたのか、残った皆はあたたかな声を様々にかけてくれた。
お陰様で、私の中に渦巻いていたネガティブな感情は限りなく薄くなっていった。
ううっ、私みたいな生きている価値が限りなく薄いゴミに、皆なんて優しい……感謝しかないです、マジで。
でも、感謝のしるしに靴でもなんでも舐めますとか言ったらドン引きされました――すみませんすみません、マジ空気読めなくて。
「ただ、アイツらが抜けた穴は大きいな」
皆での話し合いの後、改めて私は与えられていた一室で堅砂くんと言葉を交わしていた。
いや、その、何と言いますか。
自分の部屋(?)に男の子がいるって、その、何というか照れ臭いですね!
別にその、堅砂くんとどうとかなるというか、なれるわけないじゃんイケメンだよ、とか色々考えちゃうのですががががが。
すみませんすみません、クラスの女子の皆さん、私なんぞがイケメンを独占しちゃうような感じでホントすみません……今度石投げられないかな私。
「……八重垣、また君、破廉恥な……」
「は、はははは、破廉恥違うよ?! こ、今回は――多分」
「今回はってなんだ」
「こ、こここ、言葉の綾だよ、うん。
ご、ごめんね話逸れちゃって……うん、その、実際大きいよね――」
そう、実際問題そこは大きかった。
何故なら寺虎くん、そして彼に追従していった面々(中にはどうしてこの人が?という人もいたが)は、
戦い向きの『贈り物』を所持していたり、そっちに向いたステータスだったりの人ばかりで、
先日の皆揃っての魔物退治で既にレベルアップを果たした人達でもあったからね。
レートヴァ教の支援がなくなって以後の拠点や生活費を考えると、即戦力で即お金を稼げる人達がいなくなったのは、痛いと言わざるを得ない。
「うん、だから私達もなんとかお手伝いしないと、魔物退治とかでおカネ稼がなきゃね」
「生兵法は大怪我の基なんだが……実際、そうも言っていられないからな」
なので、皆との話し合いの中で、私と堅砂くんもお金を稼ぐべく冒険者になる旨を伝えておいた。
皆は心配そうな顔をしていたが、その少し前に心配をかけた身として、なによりレーラちゃんのお世話する事を明言した一人として、頑張りたかったのです。
残ったメンバーで何らかの手段でお金を稼げる人間は約半数。
昨日の冒険で得られた報酬はそれなりではあったらしいけど、今いる寮に近い条件の物件や土地を買うにはあまりにも心許なかった。
「し、師匠には明日話して……できれば協力してもらって、その日の内に依頼を受けたいね」
「俺としてはもう一日は準備期間が欲しいが――そこは師匠の意見を聞いてからにしようか。
師匠が難色を示したら我慢するようにな」
「うん――その時は仕方がないかな」
言いながらベッドに腰かけた私は、すぐ傍で静かに眠るレーラちゃんの頭を撫でた。
レーラちゃんを助けたいと思った事に後悔はない。
だけど、自分達の事さえままならない私達が、これから先レーラちゃんと共に生活できるかの不安はあった。
でも、だとしても。
「こういう時こそ焦るべきじゃないぞ、八重垣」
「――うん、そうだね」
私は知っている。
こんな時に焦って近道をしようとすれば、すぐ側にある落とし穴を見落として、ハマり込んでしまう事を。
私達に出来る事を模索して、協力し合って積み重ねて、地道に歩む。
それが今の私達にとっての、最良の異世界生活だと――私は思うのだ。
「こんな時だからこそ焦らず地道に――か、堅砂くんも協力してくれる?」
「致し方ないな。手を組んだばかりだし」
「あ、ああ、改めて、よろしく」
そうして私が差し出した手を、堅砂くんは面倒臭そうに、それでも確かに握り返してくれた。
不安な事だらけだけれど、まだ出来る事はたくさんある。
今こうして、誰かと
あ、でも、それはそれとして。
こうして握手してると友達な感じでいいよね……あ、調子こいてすみません、はい。
私みたいなゴミがクラスのイケメン様と友達とかないですよね、ええ……うふふ、でも、この
私なんぞに友達とか烏滸がまし過ぎるのは分かっておりますけどね……うふふふふふ。
「うふふ、ふへへへ、ひひひ……」
「……ハァ。
指摘するの面倒になってきたというか、最早ただただ可哀想な気がしてきたな――」
――そうして。
異世界に訪れて5日経った私は、ひとまず二十日後に皆で笑って生活できる事を目標に定めました。
だが、この時の私は知らなかった。
その目標が最終的に辿り着く、予想外の結末と顛末を……まさか、あんな事になるなんてね――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます